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プリンシプルベース化が進む金融行政

有吉 尚哉

 金融事業者の「顧客本位の業務運営」を定着させるため、事業者側に新たな指標作りを求める「顧客本位の業務運営に関する原則」と、金融検査・監督における新しいモニタリングの考え方などをまとめた「金融モニタリング有識者会議報告書」が今年3月、金融庁から相次いで公表された。いずれも、金融庁が、新たな視点から金融機関の取り組みを点検し改善を促す道具とするものだ。金融行政に詳しい有吉尚哉弁護士が概要を解説する。

 

プリンシプルベース化が進む金融行政
 ―顧客本位の業務運営に関する原則と金融モニタリング有識者会議報告書の概要―

西村あさひ法律事務所
弁護士 有吉 尚哉

■ はじめに

有吉 尚哉(ありよし・なおや)
 2001年東京大学法学部卒業。2002年弁護士登録。2010年~2011年金融庁総務企画局企業開示課出向。現在、西村あさひ法律事務所弁護士。金融法委員会委員。資産流動化取引その他の金融取引、信託取引、金融商品取引業その他の金融関連規制への対応等を担当。
 今年(平成29年)に入ってから、金融庁より「顧客本位の業務運営に関する原則」(以下「顧客本位業務運営原則」)と「金融モニタリング有識者会議報告書」(以下「金融モニタリング報告書」)が公表されているが、これらはいずれも金融行政のプリンシプルベース化の取組みを更に進めるものと評価することができる。

 顧客本位業務運営原則は、金融事業者が顧客本位の業務運営におけるベスト・プラクティスを目指す上で有用と考えられる原則を示したものであり、原則案に対するパブリックコメントの手続を経て、平成29年3月30日に最終版が公表されている。金融モニタリング報告書は、平成28年8月に設置された「金融モニタリング有識者会議」(座長:吉野直行アジア開発銀行研究所所長)において、金融検査・監督における新しいモニタリングの基本的な考え方や手法などについて議論した結果をとりまとめたものであり、平成29年3月17日に公表されている。

 以下では、主に金融行政のプリンシプルベース化という観点から、顧客本位業務運営原則と金融モニタリング報告書の概要を解説する。

■ 顧客本位業務運営原則の構成

 近年、金融監督上、金融機関が「フィデューシャリー・デューティー」を果たすことが求められるようになってきたが、顧客本位業務運営原則は、フィデューシャリー・デューティーを具体的な規律として定めるものといえる。

 顧客本位業務運営原則の構成は、原則の制定の経緯及び背景、原則の目的などの総論的な事項を記述した上で、金融事業者が顧客本位の業務運営におけるベスト・プラクティスを目指すために遵守すべき原則として、以下の7項目を掲げるものとなっている(なお、紙幅の関係から、本稿では個別の原則の内容についての解説は省略する)。

 ・原則1 顧客本位の業務運営に関する方針の策定・公表等
 ・原則2 顧客の最善の利益の追求
 ・原則3 利益相反の適切な管理
 ・原則4 手数料等の明確化
 ・原則5 重要な情報の分かりやすい提供
 ・原則6 顧客にふさわしいサービスの提供
 ・原則7 従業員に対する適切な動機づけの枠組み等

■ 規律付けの方法

 顧客本位業務運営原則は、法律のように法的拘束力を有する規範ではなく、原則の趣旨に賛同する金融事業者が自発的にこれを採択することにより、原則を遵守することを期待するものである。原則を受け入れるか否かは金融事業者の判断に委ねられており、各金融事業者はレピュテーションなどへの影響を踏まえて受入れの当否を検討することが必要となる(もっとも、事実上の問題として、金融規制の対象となっている金融機関が金融庁の策定した原則を受け入れないという選択を行うことには、慎重な検討が必要となろう)。

 ここで、顧客本位業務運営原則は法令ではないことから、直接民事責任の根拠となったり、これに従わないことにより直ちに罰則や行政処分の対象になるものではない。また、原則1では顧客本位の業務運営に関する方針を策定し、公表することが求められているが、パブリックコメントへの回答の中では「原則1.に基づいて策定・公表した方針とは異なる対応をとっていたことをもって直ちに金融商品取引法等の違反となるものではありません」と述べられている。しかしながら、顧客本位業務運営原則を受け入れた金融事業者には、原則の対応状況を踏まえた検査・監督が行われることに加えて、個別の紛争において注意義務などの具体的な内容が争点となった場合には、顧客本位業務運営原則が策定されたという事実や、個々の金融事業者が原則に従って策定・公表した方針の内容を踏まえた判断がなされることになると考えられる。このように、顧客本位業務運営原則による規律が、間接的に責任の根拠となる可能性があることも踏まえて、各金融事業者には受入れの当否や受け入れた場合の対応方針を検討することが求められる。

 そして、顧客本位業務運営原則では、金融事業者がとるべき行動を個別的、具体的に規定する「ルールベース・アプローチ」ではなく、顧客本位の業務運営に有用となる抽象的な原則だけを定め、原則の趣旨・精神を実践するためにどのような行動をとるべきかについては、金融事業者が自らの置かれた状況に応じて判断するという「プリンシプルベース・アプローチ」の手法がとられている。この点、ルールベース・アプローチの規律の方が対象者にとって遵守すべき事項が分かりやすい一方で、規制の内容が事実上、最低基準(ミニマム・スタンダード)となり、それさえクリアをすればよい(足切りラインさえ超えれば100点を目指す必要はない)とする態度を助長しやすいといった難点があることが指摘されている。金融庁は、金融事業者に対して、自ら主体的に創意工夫を発揮し、ベスト・プラクティスを目指して顧客本位の良質な金融商品・サービスの提供を競い合うことを期待しており、かかる観点から、顧客本位業務運営原則では、プリンシプルベース・アプローチの手法が採用された。

 同時に、顧客本位業務運営原則では、「コンプライ・オア・エクスプレイン」の考え方がとられており、顧客本位業務運営原則を採択した金融事業者であっても、個別の原則のうちの一部を実施(遵守:コンプライ)しないことも許容されるが、その場合には実施しない理由や代替策について分かりやすい表現で説明(エクスプレイン)を行うことが求められる。

■ 原則の適用対象

 ここまでの説明の中で既に言及しているとおり、顧客本位業務運営原則の適用対象は「金融事業者」である。「金融事業者」という概念は法令に定められているものではなく、これまで金融規制の中で用いられたことのないものであるが、「金融商品の販売、助言、商品開発、資産管理、運用等を行う全ての金融機関等」が含まれるとされている。もっとも、顧客本位業務運営原則では、具体的にいかなる業態が「金融事業者」に含まれるか定義されておらず、「顧客本位の業務運営を目指す金融事業者において幅広く採択されることを期待する」と述べられており、想定されている範囲は明確ではない。基本的には、銀行、金融商品取引業者、保険会社、信託会社などの許認可・登録を受けて業務を行っている金融機関が対象となると考えられるが、パブリックコメントへの回答では、例えば、保険代理店が適用対象から排除されるものではないことが明記されており、金融機関の代理店や、それ以外の事業者でもおよそ金融に関わるビジネスを営んでいる業者であれば、本原則の適用対象となり得ると考えられる。その上で、各金融事業者が顧客本位の業務運営として実施すべき具体的な取組みの内容は、業態や個々のビジネスモデルなどの個別具体的な状況によって異なるものと考えられる。

 また、適用対象となる取引の範囲についても、「金融商品・サービス」とのみ記載されており、顧客本位業務運営原則の中で具体的な範囲は示されていない。パブリックコメントへの回答の中でも「本原則はプリンシプルベース・アプローチを採用していることから、当局において具体的な適用範囲等を示すことは適当でない」という考え方が示されている。個別の原則の内容からして、仕組み性のない預貯金、貸付け、決済・送金などのサービスは顧客本位業務運営原則の対象には馴染まないように思われるものの、原則を受け入れた金融事業者は、広く提供する金融商品・サービス一般が原則の対象となり得ることを前提に、自社の顧客本位の業務運営に関する取組みとして、どの範囲の商品・サービスに対して原則1に基づき策定した方針を適用するか、検討を行うことが必要となろう。さらに、金融事業者間の取引を対象とするかなど、方針を適用する顧客の範囲についても金融事業者に判断が求められている。

 このように、顧客本位業務運営原則においては、プリンシプルベース・アプローチの下、①原則の適用対象となるかどうか、②適用対象となる場合に原則を受け入れるか、③原則を受け入れた場合にどの範囲の商品・サービス、取引を対象とするか、また、④どのように原則を実施するか(あるいは実施しないことの説明を行うか)、といった点の全てについて、業者の判断に委ねられているのである。

■ 原則を踏まえた検査・監督のあり方

 パブリックコメントへの回答では、「検査・監督においては、原則の受入れ状況、策定した取組方針、当該方針に係る取組状況について、適切にモニタリングを行い、ベスト・プラクティスの実現を目指して対話していくことが重要である」という考え方が示されている。また、顧客本位業務運営原則と同時に、金融庁としての原則の定着に向けた取組みについての説明資料が公表されているが、その中では当局によるモニタリングのあり方として、①金融事業者との対話を実施することのほか、②金融事業者におけるベスト・プラクティスの収集、③各金融事業者の取組方針と取組みの実態の乖離の有無についてのモニタリングの実施、④モニタリングを通じて把握した事例の公表といった内容が示されている。

■ 金融モニタリング報告書の構成

 前述のとおり、金融モニタリング報告書は、金融検査・監督における新しいモニタリングの基本的な考え方や手法等についての「金融モニタリング有識者会議」における議論をとりまとめたものであり、金融検査・監督に関するこれまでの取組みと現状を整理した上で、目指すべき方向と対応すべき課題を記述する構成となっている。

 その中では、金融行政の目指すべき方向として、以下の3項目が提言されている。

  •  金融行政の究極的な目標との整合性を確保すること
  •  「形式・過去・部分」から「実質・未来・全体」へと視点を広げること
  •  「最低基準の充足状況の確認」にとどまらず、「ベスト・プラクティスに向けた対話」や、「持続的な健全性を確保するための動的な監督」に検査・ 監督の重点を拡大すること

 その上で、これらの目標を実現するための課題として、検査・監督の手法、組織・人材・情報インフラ、検査マニュアル・監督指針、幅広いステークホルダーとの対話、内外一体の対応などの面でそれぞれ取り組むべき点が示されている。

 以下、金融行政のプリンシプルベース化に関連する記述を中心に、金融モニタリング報告書の提言内容を概観する。

■ 金融行政の究極的な目標との整合性の確保

 金融モニタリング報告書では、金融行政の究極的な目標を、「企業・経済の持続的成長と安定的な資産形成等による国民の厚生の増大」と捉え、金融庁の伝統的な任務である「金融システムの安定」、「利用者の保護」及び「市場の公正性・透明性の確保」の3つは目標のための手段に過ぎず、また、目標達成のための必要条件ではあっても十分条件ではないとしている。そして、金融行政の目標については、視野を広げて、「金融システムの安定と金融仲介機能の発揮の両立、利用者保護と利用者利便の両立、市場の公正性・透明性と活力の両立を実現し、それを通じて企業・経済の持続的成長と安定的な資産形成等による国民の厚生の増大に寄与すること」と位置づけることが適切とする。その上で、金融行政の役割が「市場の失敗」に対応することにあるとしつつ、市場の失敗に効果的に対応できる手法であっても、これを機械的に反復・継続したり、行き過ぎがあったりする場合には、さまざまな副作用・弊害が生じ、「当局の失敗」が拡大する可能性があることを指摘し、「市場の失敗」と「当局の失敗」の総計をできるだけ小さくするため、既存の手法の副作用・弊害を軽減する努力を続ける必要があると提言している。

 これらは、金融行政の目標を達成するという観点から、金融行政の任務・運営の最適化を目指す考え方であり、プリンシプルベース・アプローチと共通する発想であると評価することができよう。

■ 「形式・過去・部分」から「実質・未来・全体」

 金融モニタリング報告書では、検査・監督手法について、「実質・未来・全体」の視点なしに「形式・過去・部分」だけを見る場合には副作用を発生させるとともに、本来の金融行政の目標に資することもできないと指摘し、以下の3点の提言をしている。

  •  「形式から実質へ」:規制の形式的な遵守のチェックより、実質的に良質な金融サービスの提供を重視
  •  「過去から未来へ」:過去の一時点の健全性の確認より、将来に向けたビジネスモデルの持続可能性等を重視
  •  「部分から全体へ」:特定の個別問題への対応に集中するより、真に重要な問題への対応ができているかを重視

 「形式から実質へ」あるいは「部分から全体へ」という観点から提言されている内容は、ルールベース・アプローチの難点を是正する視点と重なるものといえる。

■ ベスト・プラクティスの追求に向けた対話

 更に、金融モニタリング報告書では、「法令等の定める基準の遵守を強制力を伴う形で求める『最低基準の充足状況の確認』は、金融行政の目標の最低限の水準を実現するために不可欠である」とした上で、「金融行政の目標をより適切な形で実現しようとすれば、金融機関が自らの置かれた状況に応じより高い水準を目指した努力を行うよう促す『ベスト・プラクティスの追求に向けた対話』が併せて必要になる」と指摘している。

 そして、そのような対話のための手法として、これまで金融庁が開発を試みてきた手法は、以下のような類型に分類できると整理し、今後も手法の開発・改良を継続していくべきと提言している。

  •  金融機関が、自身では得ることが難しい他行の状況や顧客の認識に関する知見を当局が把握・蓄積し、それを金融機関に対して還元する手法(水平的レビュー、企業ヒアリング等)
  •  経営理念の実現等に向けた取組みの進捗状況を含め、金融機関が自身の状況を客観的に評価できるようにする手法(金融仲介のベンチマーク等)
  •  金融機関の取組みが顧客から正当に評価され、良い取組みを行う金融機関が顧客に選択されていくよう、顧客から金融機関の行動や取組みが見えるようにする手法(検査・監督等で得た知見の公表、自主的な開示の促進等)
  •  大掴みな原則を示し、関係者がその趣旨・精神を確認し、互いに共有し、ベスト・プラクティスに向けた多様な工夫を進める目安としていく手法(プリンシプルベースのコード等)

 ベスト・プラクティスの追求に向けた対話のための手法として掲げられている項目には、顧客本位業務運営原則を踏まえた検査・監督のあり方として示されている内容と重なるものが多く含まれている。ここで、金融モニタリング報告書では、ベスト・プラクティスの追求に向けた対話の手法の一つとしてプリンシプルベース・アプローチが位置づけられているが、前述のとおり、顧客本位業務運営原則との関係では、逆にプリンシプルベース・アプローチによる規律を実効的なものとする手法として対話の重要性が述べられている。金融庁は、事業者との対話とプリンシプルベース・アプローチとは密接な関係にあると捉え、プリンシプルベース・アプローチの取組みを進める中で、対話を重視しようとしていることが窺われよう。

■ 検査マニュアル・監督指針の抜本的見直し

 従来から、金融庁の行政運営においては、金融規制法の解釈・運用の詳細を定める検査マニュアルや監督指針に基づいて、個別の検査・監督が行われているが、金融モニタリング報告書では、この検査マニュアルや監督指針についての抜本的な見直しが提言されている。すなわち、検査マニュアルや監督指針は、

  •  行政の透明性・公平性・対外的な説明責任の確保
  •  金融機関と当局との間の議論の共通の前提の確保
  •  金融機関の自己管理の高度化
  •  検査・監督の品質管理
  •  行政としての知見・経験の蓄積・継続性の確保

といった点に寄与してきたと評価した上で、

  •  チェックリストの確認が検査の焦点になり、検査官による形式的・些末な指摘が助長され、実質や全体像が見失われる
  •  金融機関がチェックリストの形式的遵守を図り、自己管理の形式化・リスク管理のコンプラ化につながる
  •  最低基準さえ充足していればよいというカルチャーを生む
  •  環境や優先課題の変化への機動的な対応への妨げや、自己変革を避ける口実となる

といった懸念も示されてきたことが指摘されている。

 その上で、次のような点に留意して検査マニュアルや監督指針の抜本的な見直しを図ることが適当であると提言されている。

  •  形式・過去・部分への集中を排し、実質・未来・全体への視野の拡大を可能にするため、また、金融機関の多様で主体的な創意工夫が発揮されるよう、ルールとプリンシプルの適切なバランスを確保するとともに、事例なども用いて、基本的な考え方や趣旨を重視した記述とすること
  •  従来の「最低基準の充足状況の確認」に加え、「ベスト・プラクティスの追求に向けた対話」や「持続可能な健全性を確保するための動的な監督」といった領域について、手法の工夫や経験・知見の蓄積を反映して随時進化させていくこと
  •  金融機関の多様で主体的な取組みを尊重した対話の進め方を示すこと(当局による不適切な経営介入を防ぐための原則を含む)
  •  金融機関が、より実質的なリスク管理やガバナンスの向上を自主的に行う際にも活用できるものとすること
  •  検査マニュアル・監督指針等を統合し、オン・オフ一体の継続的モニタリングのプロセスの全体像を示すこと

■ 金融行政のプリンシプルベース化の難点

 ここまで見てきたとおり、金融庁が公表した顧客本位業務運営原則では、プリンシプルベース・アプローチがとられており(なお、パブリックコメントへの回答の中で、「金融庁として、ルールベース・アプローチを一切採用しないということではないこと」が明示されている)、また、金融モニタリング報告書では、プリンシプルベース・アプローチないしそれに通じる考え方を重視した金融検査・監督を目指すことが提言されている。

 プリンシプルベース・アプローチによる金融行政が進むことにより、ルールベース・アプローチによる難点、すなわち、①規制の内容が最低基準となり、それを超えるベスト・プラクティスに向けた取組みがなされなくなってしまうこと、②実質的な目的・目標の達成よりも形式的な規制の遵守が重視されてしまうこと、③特定の個別問題への対応に集中し、より重要な、全体としての問題への対処ができなくなってしまうことといった課題の是正につながることが期待される。

 もっとも、プリンシプルベース・アプローチの下では、個別具体的な基準・ルールが示されないことにより、遵守すべき規律の内容が不明確となり(例えば、顧客本位業務運営原則については、パブリックコメントにおいて、原則の具体的な内容の確認を求めるコメントが多数寄せられていたにもかかわらず、それらの大半のコメントに対して、当局において具体的な適用範囲等を示すことは適当ではなく、金融事業者において判断すべき旨の回答がなされ、明確な指針が示されていない)、規律の不明確さに伴う萎縮効果によってかえって金融機関の行動が制約されるおそれがある。また、規律を遵守するための具体的な方法は、金融機関の側の裁量に委ねられる部分が多いことになるが、金融検査・監督の運用次第では、反射的な効果として行政指導における裁量の幅も広がることとなり、行政による過度な束縛や経営介入につながる可能性も否定できない。

 更に、今後、金融モニタリング報告書の提言に従って検査マニュアルや監督指針の見直しが進められることは予想されるものの、顧客本位業務運営原則の導入や金融モニタリング報告書の提言との関係で法令改正がなされるわけではなく、従来の金融規制も維持されている(パブリックコメントの回答の中でも、顧客本位業務運営原則が、「ミニマム・スタンダードを定める法令上の個別の規定を代替するものではなく、従って、これまで同様、法令違反と判断される事象があった場合には、法令に則り厳正に対処する必要がある」と述べられている)。従って、金融庁における顧客本位業務運営原則などの運用次第では、従来の規制はそのままに、顧客本位業務運営原則の規律が追加的に適用されることとなり、結果として単純な規制強化ということにもなりかねない。また、プリンシプルベース・アプローチという考え方が十分に消化されないまま金融検査・監督がなされることとなると、市場における「ベスト・プラクティス」(あるいはそれを超えるプラクティス)がミニマム・スタンダードとして求められるような運用となってしまう懸念もある。

 金融行政のプリンシプルベース化に

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