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フランスにおけるバーチャルオンリー型株主総会の解禁に関する最新動向

菅 悠人

フランスにおけるバーチャルオンリー型株主総会の解禁に関する最新動向

   

弁護士・フランス共和国弁護士・NY州弁護士
菅 悠人

 

菅 悠人(すが・ゆうじん)
 2009年弁護士登録。2008年東京大学法科大学院卒業。2016年コロンビア大学ロースクール卒業(LL.M.)、2017年パリ第二大学修士課程卒業(LL.M. de droit français, européen et international des affaires)。2017年フランス・パリ弁護士会登録、2018年ニューヨーク州弁護士登録。2017年より2018年までウィルマーヘイル法律事務所(ロンドンおよびブリュッセルオフィス)へ出向。
 新型コロナウイルスの世界的な感染流行に伴い、2020年という年は、世界的に見ても未だかつてないほどバーチャル株主総会への関心が高まった年であったと思われる。株主が株主総会の会場に出向くことなくオンラインで遠隔地から参加できるようにするための措置としては、我が国においても、いわゆるリアル株主総会を開催しつつ、リアル株主総会の場に在所しない株主がインターネット等の手段を用いて遠隔地から参加・出席することができる「ハイブリッド型バーチャル株主総会」が会社法上適法に開催可能と解されている。他方で、リアル株主総会を一切開催せず、会社役員及び株主等の全ての当事者がオンラインで出席する「バーチャルオンリー型株主総会」については、株主総会の招集に際して「株主総会の場所」を定める必要があることから(会社法298条1項1号)、日本で開催することは解釈上難しいと解されている。

 他方で、日本においても、今回の感染流行をきっかけとして、バーチャルオンリー型株主総会の是非に関する議論が生じており、法改正によりこれを認めようとする動きが生じている(注1)

 この点、フランスにおいては、新型コロナウイルスの感染拡大に伴って2020年3月に行われた緊急対策立法により、小規模な会社にとどまらず、上場している株式会社についてもバーチャルオンリー型の株主総会も開催可能とされるに至った(注2) 。もっとも、このようなバーチャルオンリー型の株主総会は、株主の権利行使の制約となる場面も少なくないことから、現地においても批判はあり、議論が続いている。以下では、フランスにおけるバーチャルオンリー型株主総会の利用に関する規制と実務上の対応について概説する。

1 新型コロナ緊急対策立法導入前の状況

 上記の緊急対策立法導入前のフランスの法制の下では、一部の例外的な場面を除いて、原則として株主総会をバーチャルオンリー型で開催することは認められていなかった。以下、日本でいうところの有限会社(société à responsabilité limitée、以下「SARL」という)、株式会社(société anonyme、以下「SA」という)、及び合同会社(société par actions simplifée、以下「SAS」という)のそれぞれに関する法的規律について説明する。

 まず、わが国でいう有限会社に当たるSARLについては、フランス商法典上、定款で定めることにより、株主が株主総会にオンラインで出席し、議事への参加及び決議への投票が可能であるとされている(注3) 。もっとも、この定めはいわゆるハイブリッド型株主総会を想定していたものであり、バーチャルオンリー型の株主総会の根拠となるものではない。また、フランスの場合、日本でいうところの株式会社に当たるSAの場合には書面決議による方法が認められていないが、SARLについては定款で定めることにより書面決議によることが認められているため(注4) 、リアル株主総会を開催することなく株主総会を開催する方法としては、書面決議に依拠することも考えられる。もっとも、前者のオンライン出席も、後者の書面決議も、会社の決算の承認に関しては用いることができないとされているため、SARLにおけるリアル株主総会の開催省略には限界もあった。

 次に、わが国でいう株式会社に当たるSAにおいては、書面決議によることが認められず、株主総会が実際に物理的に開催されなければならないというのが緊急対策立法導入前の原則的なルールであった。とはいえ、SARLの場合と同様に、ハイブリッド型株主総会を想定したものではあるものの、定款で定めることにより、株主が株主総会にオンラインで出席し、議事へ参加し決議に投票することは可能であるとされていた(注5) 。加えて、フランス商法典上は、非上場のSAについては、定款で定めることにより、オンライン参加のみによる株主総会を開催することも可能という規定も、緊急対策立法導入前から既に存在していた(注6) 。この規定は、バーチャルオンリー型株主総会の開催を、非上場のSAに限って部分的に認めたものと理解することができる。しかしながら、この規定は、その但書で、発行済株式総数の5%以上を有する株主は、決議事項に定款変更等が含まれる場合には、かかるオンライン参加のみによる株主総会の開催に異議を申し立てることができるとしている点に注意が必要である。

 他方、日本の合同会社に当たるSASにおいては、株主による意思決定の形式及び条件を定款で定めることができるとされている(注7) 。このため、緊急対策立法の導入前から、例えば、Skypeを通じて株主総会開催できる旨を定款で定めることも可能であり、定款の定めがある限りは、バーチャルオンリー型株主総会を比較的自由に開催できると解されていた。

 このように、SARL及びSAのいずれにおいても、バーチャルオンリー型株主総会は原則として認められていなかった中で、バーチャルオンリー型株主総会が許容されていたのは、定款の定めがあることを前提として、SAS及び(異議申立ての可能性がある条件の下で)非上場のSAに限られていた(つまり、SAである上場会社については、バーチャルオンリー型株主総会は許容されていなかった)、というのが緊急対策立法導入前の状況であった。

2 新型コロナ緊急対策立法導入によるルールの変更

 新型コロナウイルス感染症の感染拡大を受けて、フランス政府は、会社法分野における緊急対策立法の一環として、2020年3月25日付けで、バーチャルオンリー型株主総会の開催を認めるオルドナンス第2020-321号(注8) を制定した(オルドナンスとは、政府が制定する行政立法の一種で、一定の制約の下で法律と同等の価値を持ち得るとされるものである)。このオルドナンスにより、保健衛生上の理由による行動制限等の行政上の措置がなされている場合には、2020年7月31日までに開催されるSARL、SA及びSASの株主総会については、株主が出頭しないまま株主総会を開催する方式(いわゆるbehind the closed doorsの態様によるもの、以下「株主不出頭方式」という)、又は電話会議若しくはビデオ会議により開催する方式(以下「電話・ビデオ会議方式」という)を採ることができることとなった(注9) 。即ち、新型コロナウイルス感染症の感染拡大対策を目的とする時限立法によるものではあるものの、フランスでは、2種類の態様で、定款の定めの有無にかかわらず、バーチャルオンリー型株主総会の開催が可能となった。なお、上記オルドナンスによる特例措置の適用期限は、その後2回にわたって延長され、現在は、少なくとも2021年4月1日までに開催される株主総会には、上記の特例措置の適用があることが明確化されている(注10)

 株主不出頭方式又は電話・ビデオ会議方式により株主総会を開催する場合における株主の議決権行使は、①書面による議決権行使、②議決権の代理行使、③インターネット上における安全性を確保したオンラインプラットフォームを通じた議決権行使、のいずれかで行われることが想定されている。また、株主総会における株主による質問権の行使も、株主に事前に書面で質問を提出させ、これに対して書面又は株主総会において回答する方法が主たる選択肢となる。

3 緊急対策立法のアップデート

 株主不出頭方式と電話・ビデオ会議方式のうち、電話・ビデオ会議方式は、株主を株主総会の議事にリアルタイムで参加させることができるため、株主不出頭方式と比較すると、株主の権利をより尊重した開催方式であると考えられる。他方で、上場しているSA等においては、当然ながら株主の数は多数に上ることから、全ての株主を電話会議又はビデオ会議で接続し、議事を執り行うことには技術的な困難が伴う。特に、フランスの場合には、わが国と同様に、大規模な上場会社では数百ないしは千人単位の株主が出席する株主総会も珍しくないことから、上場会社の場合に、電話・ビデオ会議方式を採用することは実務上容易なことではない。

 他方で、株主不出頭方式に関しては、電話・ビデオ会議方式に見られるような技術的困難は伴わない。このため、上記のオルドナンスが制定されて以降、上場会社の多くは、この株主不出頭方式を採用して株主総会を開催している。もっとも、このような開催方式は、会社側がいわば密室に参集した上で、株主を株主総会の議事には一切関与させない形での開催も可能となるため、制定当初よりその是非については議論があった。このため、フランスの金融市場庁(Autorité des marchés financiers)は、上記のオルドナンスの制定当初より、上場会社の場合には、インターネットでアクセスできる形式の動画又は音声により、株主総会の進行の様子をリアルタイムで株主に提供することを推奨していたところである。

 このように、当初は4ヶ月程度の短期間を想定して特例的に利用が認められた株主不出頭方式であるが、適用期限が延長されるにつれ、このような開催方式では、議場において質問権を行使することもできず、動議の提出もできないことから、事実上、株主の権利を奪うものであるとの批判も高まった。特に、ある取締役選任(あるいは解任)議案について賛否が拮抗しているような場合には、株主総会当日に行われる議論の内容が議案の採決の結果に影響を及ぼす可能性があるところ、会社としては、株主不出頭方式を採用することで、総会当日の質疑応答やそれに基づく議決権行使を回避できるようになる。この点、実際にアクティビスト・ファンドなど株主側と会社役員側の見解とが対立する取締役選任議案が提出されたものの、会社が株主不出頭方式を採用したため、他の株主の賛同を集めるために十分なキャンペーンができなかった(リアル株主総会を開催していれば異なる議決結果になった可能性も否定できない)と指摘される事例も出てきたことから、上記の批判は必ずしも杞憂ではなかったことが明らかとなるに至った。かかる批判を受けて、フランス政府が2020年12月に特例措置の適用期限を再度延長することを決定した際には、オルドナンスの内容が一部改正され、会社が株主不出頭方式を採用して株主総会を開催する場合には、①上記金融市場庁の推奨内容に倣って、株主総会の進行の様子をリアルタイムで株主に提供し(この際の提供方法は、動画でも音声のみでもどちらでもよいと解されている)、また、後日その様子をウェブサイト上で再生できるようにすること、及び②株主が事前に提出した全ての質問は、これに対する回答と共に、会社のウェブサイトに掲示することが義務付けられることとなった(注11)

4 実務における対応と動向、日本への示唆

 以上のとおり、電話・ビデオ会議方式は、株主の数が多い場合には接続に関する技術的な問題を伴うことから、2020年に上場会社が開催した株主総会で用いられることはほとんどなかった。このため、ほとんどの上場会社は、上記オルドナンスの施行後は、株主不出頭方式により株主総会を開催している。

 もっとも、大規模な上場会社の多くは、金融市場庁の推奨に従って、上記3で述べた義務化が実施される前から、株主総会の進行の様子をリアルタイムで株主に提供し、また、後日その様子をウェブサイト上で再生できるようにする旨の措置をとっている(音声のみの提供とする会社も存在するが、大多数は動画を提供している)。これに加えて、株主による質問権の行使についても、事前に書面で質問を提出させる方法に限定せず、株主総会当日にリアルタイムで質問を提出できるオンラインツールを株主のために用意した上場会社の実例も複数存在する。

 議決権の行使についても、書面による議決権行使だけでなく、上記2で③として挙げたオンラインプラットフォームを通じた議決権行使の方法を併せて提供した事例も見られる。もっとも、議決権の行使については、オンラインプラットフォームを通じた議決権行使の方法を提供する場合であっても、行使期限は、通常は株主総会の開催日よりも前の時点に設定されているため、リアルタイムの議決権行使が可能とされているわけではない。即ち、2021年の株主総会において新たな動きが生じる可能性は否定できないものの、技術的な問題もあるためか、2020年にフランスで開催されたバーチャルオンリー型株主総会において、リアルタイムの議決権行使を可能とした事例はなかったようである。その意味では、依然として、株主不出頭方式を採用することによって、株主から議論に基づく議決権行使の機会を奪っているとの批判に完全には応えられていないことになる。

 もっとも、例えば、英国等では、上場会社において、オンラインアプリ等を利用したリアルタイムの議決権行使を可能とする株主総会を開催する事例も既に登場していると指摘されており、フランス国内においても、上記の批判も相俟って、バーチャルオンリー型株主総会でリアルタイムの議決権行使を可能とすべきとの議論が高まっている。

 上記のほか、フランスにおいて

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