メインメニューをとばして、このページの本文エリアへ

イメージも主張も割れるデジタル教科書

川本裕司

川本裕司 朝日新聞記者

 「デジタル教科書を2015年に全ての小中学校全生徒に配備する」という原口ビジョンが昨年12月に発表されてから、デジタル教科書は動き始めた。

 当時の原口一博総務相が「ICT(情報通信技術)維新ビジョン」と名づけた政策構想で、デジタル教科書はフューチャースクールという協働型教育改革の施策例の筆頭に位置づけられた。総務省が畑違いの教育問題を取り上げる政治主導の提言だった。

 原口氏は野党時代の08年、視察先のシンガポールでICTを利用し学力を上げた小学校を訪れた経験があった。朝日新聞のインタビューに、原口氏は「デジタル教科書は世界の趨勢。5年もすればはっきりする」と語った。

 デジタル教科書という言葉がよく使われるようになってきた。しかし、教師向けの指導用のデジタル教科書はあるだけで、子ども用のものはまだない。教室のICT化といっても、チョークを使わない電子黒板が全国に56000台普及しているにすぎない。

 子どもと教師が1人1台の情報端末(タブレットPC)を通じて双方向のやり取りをする実験が3年間かけて実証研究をする全国10小学校でようやく始まった段階だ。

 現実に存在しないデジタル教科書だけに、描かれるイメージがバラバラだ。紙の教科書を全廃して、すべてデジタル化する教室風景が想像されがちだが、総務省も文科省も「紙とデジタルを併存させ、ベストミックスを図る」と言っている。

 黒板を単調に使う授業に比べ、デジタル教科書の長所は子どもの意欲や関心が高まることがあげられている。これまで手を挙げなかった子どもが情報端末に何を書いているか教師がわかるのも利点といわれる。弱視の子どもに教科書の拡大版をつかうといった障がい者向けの対応も可能という。

 他方、情報端末を長時間にわたり見ることで子どもの視力に影響しないか、教師がより多忙にならないか、といったマイナスを心配する声も出ている。

・・・ログインして読む
(残り:約1319文字/本文:約2111文字)