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タイガーマスク運動から理解、そして変革へ――児童養護施設に暮らした経験から

大久保真紀 朝日新聞編集委員(社会担当)

 全国の「タイガーマスク」から児童養護施設などにランドセルや文房具、食品、寄付が相次いで寄せられています。児童養護施設というのは、親が病気だったり、親を亡くしたり、あるいは親からの虐待などが原因で、親と一緒に暮らせない子どもたちが生活する児童福祉施設です。全国に約580カ所あり、原則18歳までの約3万人の子どもたちが暮らしています。

 

 私は以前、その児童養護施設に80日間、住んだことがあります。といっても、子どものころのことではなく、取材者として1カ月に10日間ずつ8カ月にわたって、ある施設で生活させてもらいました。

 新聞記者であることを明かした上で、布団部屋で寝起きをさせてもらって、子どもたちと一緒に起床し、ごはんを食べ、小学生以上が学校に行っている間は幼児さんと遊び、午後は学校から帰ってきた子どもたちの宿題を手伝い、夕食を食べ、一緒に風呂に入る、というそんな生活でした。

 多くの人は、児童養護施設を恵まれない子どもたちが「生活する」場所ととられていると思います。もちろんそうですが、単に生活をする、などというほど易しいものではありません。子どもたちの半数以上が虐待を受けてきた経験があり、最近は発達障害児の入所も増えています。心が傷ついた子どもたちが何とか生きるためにもがきながら、さまざまな問題を出しながら生活しています。

 たとえば、私が施設に出入りしていたときに出会ったさっちゃんという女の子は当時8歳でした。夏のキャンプで、私はさっちゃんの担当になりました。移動するバスがドライブインに止まり、それぞれが買い物をしました。前日までは「明日買い物やね。楽しみやね」と話していたのですが、バスから降りると、「何でついてくんねん」とさっちゃんは私をにらみつけます。

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