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オピニオン3・11――東日本大震災を考える(4)【無料】

朝日新聞3月17日付オピニオン面(麻生幾さん、松崎太亮さん)

 未曽有の災害と事故が重なったとき、危機管理はどうだったのか。どうあるべきだったのか。政治はいま、何をすべきなのか。中央から指示が届かない、待っていられない被災地ではどんな行動をとればいいのだろうか。

◆命綱の国道 政府主導で作れ

作家・麻生幾さん

 検証なる言葉は、今の段階では、まったく必要ない。時期尚早である。未曽有のクライシスはまさに「オンゴーイング(進行中)」なのだ。

 被災者・避難民への救援活動はこれからが本番だ。支援物資、医療チームや自衛隊員を運ぶ膨大な数の車両が東北へと向かっている。飢えと寒さに苦悶する被災者たちにとって東北地方の開通した16本の国道を埋める車両群は、まさに「命の綱」なのである。

 政府は、救援を急ぐよう関係省庁に矢継ぎ早の指示を放っている。なかなかコントロールできない福島原発事故とは違い、届きさえすれば、との期待が大きい。

 自衛隊の動きも素早い。陸海空の自衛隊は史上初めて、統合任務部隊(JTF)の編成を行った。陸上自衛隊の東北方面総監が総指揮官となり、海と空の自衛隊の部隊が組み込まれ、東海地震でシミュレーションをしていた十数万名による「オールジャパン」の体制で動きを開始している。

 またアメリカ軍の横田基地には、海兵隊部隊が集結。被災者救援を行う自衛隊との連携にも不安はない。

 ところが、原発事故以外に、政府の予想もしていなかった事態が発生する危惧が、今、高まっている。

 福島原発事故で、菅直人首相が、20~30キロ圏内の屋内退避を勧告した直後から、地元住民が車で脱出し始めている。それによって、ただでさえ救援物資を運ぶ車両で渋滞する国道の幾つかの場所で、渋滞が発生中なのだ。東北地方は、国道こそ生活と移動の大動脈。しかもいまだに遮断されている国道もある。

 自治体は、被災者への配給を優先し、脱出する人々の通行を規制しているから、なおさらである。お陰で、脱出する人々の車がガソリン不足で身動きがとれない事態も起きている。

 だからと言って、規制は止められない。止めれば、救援物資が届かなくなる。それはすなわち、被災者や避難民の生命に直結するからだ。

 福島原発のクライシスのレベルが上がれば、政府は退避勧告の範囲を一層、広げざるを得ないだろう。そうなると、原発地帯周辺からの脱出が進むことになる。ガス欠などによる立ち往生の恐れがさらに生じ、東北地方の大渋滞は想像を絶する事態となってしまう。被災者たちの命綱が切れてしまうことになりかねない。

 地震と津波は人知の及ばぬ天災であった。しかし、この事態がもし起これば、人災である。政府の対応次第で逃れる方法があるからだ。

 政府に求められるのは、言いっぱなしの「勧告」ではない。救援物資ルートと脱出ルートを別個に確保するための法的措置と、自衛隊、警察への政治指導ではないか。

 震災から1週間になろうとしている今、関係省庁から官邸への不満が聞こえてきた。地震発生直後から繰り返した指示への不満である。しかしいま、そんなことを糾弾している時ではない。

 今、目の前に差し迫った危機の前で、政治も「オールジャパン」として動かなくてはならない。(寄稿)

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 あそう・いく 60年生まれ。警察や防衛に関する情報のスペシャリスト。政府の危機管理の欠陥を指摘した小説「宣戦布告」はベストセラーに。

◆「沈黙の避難所」をなくそう

神戸市復興支援員・松崎太亮さん

 私は阪神淡路大震災当時、神戸市の広報課職員でした。震災の経験を生かし、現在は国際協力機構(JICA)と協力して、国内外の防災教育支援を行っています。

 移動・連絡網が分断され、不測の事態が次々と起こる被災地では、中央からの指示で動くトップダウンには限界があります。求められるのは、自治体の職員からボランティアまで、一人ひとりが高い自主性と責任感で行動する「自立・分散型」の手法です。

 私たちが内外の自治体職員向けに開発した研修プログラムには、受講者に避難所の運営責任者や自治体の現場責任者になってもらうロールプレーがあります。

 上から指示されることに慣れた人に、危機管理における自立的な判断の重要性を、身をもって知ってもらうのです。「遺体がどんどん運ばれてきて、安置する場所がない」「犬を持ち込んだ人がいる」「おばあちゃんが急に苦しみ始めた」。想定外の事態が次々と起こるシナリオを体験すると、多くの人はパニックのような状態に陥ります。

 被災地はある意味、なんでもありの場所です。独断専行は控えつつ、思いついたことを積極的に提案し、実行に移す気持ちを誰もが持って欲しいと思います。

 被災地の情報収集や支援についても、国に一元的に集約するのではなく、宮城県のことは山形県に、岩手県のことは秋田県に、というように、被害の少ない近隣の自治体が責任を持てば、きめ細かい支援ができるのではないでしょうか。これも、より大きな形の「自立・分散型」と言えます。

 現在はまだ、被災者の救助や遺体の収容など警察、消防、自衛隊が担う仕事が中心です。遠からず、ボランティアの本格的な出番がやってきます。

 ボランティア活動を望む人は、いきなり現地の自治体に連絡するのではなく、まず、自分が住む市区町村の社会福祉協議会に問い合わせてみてください。阪神大震災以来、各地にボランティアの地域コミュニティーが育っています。そうした人々の活動に合流するのがよいと思います。

 阪神大震災では一部、ボランティア同士のトラブルもありましたが、現代の若者たちは、インターネットでの交流を通じて「見知らぬ同士が、どううまくやっていくか」というスキルを身につけている。活躍が期待できると思います。

 被災地での「情報の品質管理」も重要です。阪神大震災でも、情報の不足を背景に「次の満月にはさらに大きな地震が来る」「仮設住宅は先着順」などのデマが広がりました。私たちは自転車部隊で情報を伝達し、連絡のつかない「沈黙の避難所」をなくす努力をしました。情報を絶えず更新し、デマの広がる隙を作らないことが重要です。

 情報媒体としての「紙」の力も再認識すべきです。通信が途絶えていても紙ならば配れるし、忙しくてメールを確認できない職員も、ファクスなら目にできる。そのまま掲示板に張り出せば、より多くの人に情報を伝えられます。(聞き手・太田啓之)

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 まつざき・たいすけ 59年生まれ。84年から神戸市職員。同市教育委員会などを経て現職は企業誘致推進室主幹。著書に「防災都市神戸の情報網整備」など。