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問題は社会の意識――九州大学の入試における女性枠

大久保真紀 朝日新聞編集委員(社会担当)

九州大学が、来年度の一般入試から、理学部数学科の後期日程で、「定員9人のうち5人を女性枠とする」とした計画を撤廃しました。

 このニュースを耳にして、まず私が驚いたのは、撤廃したという計画の中身です。単に知らなかったのですが、九州大学は9人のうち5人も女性枠としていたのか、と驚きました。半分以上を女性としていることに、あまりの先駆性に、一瞬、「えっ、ここまでしているのか?」とさえ思いました。朝日の新聞記事によると、電話やメールなどで「男性差別につながる」「法の下の平等の観点から問題があるのではないか」などの批判があったとも書かれてありました。

 しかし、です。よく考えてみると、後期日程の9人の中でのことです。九大のホームページを調べてみると、数学科の募集は全体で53人。その内訳は、前期36人、後期9人、AO入試8人とありました。そのうちの、後期の9人について5人を女性枠としていたのです。この全体の数字を見ると、自分の認識があまりにも浅はかだったと反省しました。

 逆に、新たな試みを始めた九大の取り組みの撤廃は残念だと強く感じました。

 九大学務部入試課の竹下浩幸さんによると、数学科の募集53人に対して、女性の入学者は2011年度が8人。2010年度は5人、2009年度は7人、2008年度は3人、2007年度は11人だったそうです。全受験者に占める女性は2011年度は154人のうち17人、2010年度は175人のうち32人だったそうです。

 圧倒的に女性が少ないのが現状です。

 文部科学省によると、全国の大学・大学院で女性教員が占める割合(2007年10月現在)は18・2%で、国立大は約12%。九大は全学で10・5%(今年5月現在)、数学分野では約4%(同)とさらに低いそうです。名古屋工業大学など推薦入試で女性枠を設けている大学がある中で、九大は昨年3月、一般入試で女性枠を作ると発表していたそうです。

 その理由については、女性の志願者を増やし、将来的に研究者の増加につなげたいという考えがあり、「優秀な女性の人材を育成しなければ、数学分野のみならず社会にとっても損失が大きい」と九大では説明していました。これだけ女性が占める割合が少ないのは、女性が男性より劣っているということでは説明できません。大学卒業後の活躍の場のあり方であったり、就職状況だったり、その後の職場環境、社会環境だったり、さまざまな要因が複雑にからみながら、女性たちが二の足を踏むという状況を生み出していると思われます。

 九州大学が「人材を育てる」という発想で、女性枠を作ったことは評価されることだと思います。前出の竹下さんにうかがったところ、何が何でも女性を入れるということではないとのことです。「後期日程で女性枠を5人とはしたが、レベルの低い人は落とすので、5人に達しないこともある、との合意だった」と竹下さんは説明してくれました。

 10人に1人しか女性がいないというのは、やっぱり異様な感じがします。世の中、男性と女性と半々にいるわけですから。もちろん力仕事だったり、体力的にきつい仕事だったりして、必ずしも男女比が半々になるとは限らない分野もあるとは思いますが、小学校や中学校では女性の教員はあれだけたくさんいるのに、どうして大学ではこんなに少なくなってしまうのでしょう。

 新聞社も昔は男性がほとんどを占めていました。私の30年ほど先輩の女性たち、つまり、いまから半世紀以上も前に、女性たちが1人、2人と入り始め、道を切り開いてきました。

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