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厳罰主義が際立つ松本NHK会長

川本裕司 朝日新聞記者

安西祐一郎・前慶応義塾塾長が就任を受諾したあと白紙に戻った末、二代続けて民間企業経営者からNHKトップに選ばれた松本正之会長。来年度からの3カ年経営計画に、受信料10パーセント還元策をどのように盛り込むかが、今年最大の課題となっている。その前に新会長カラーが打ち出されているのが、不祥事を起こした職員に対する厳罰主義だ。

 たしかに年明けから不祥事が相次いでいた。

 まず1月28日、建造物侵入の疑いで逮捕された松江放送局の職員(29)を諭旨免職(発令は2月4日)。続いて、2月21日には、無免許のまま2009年9月から今年1月までNHKの車を運転していた札幌放送局放送部(千歳報道室)の記者(27)を懲戒免職(同2月28日)、視聴率データを契約に反してインターネット掲示板に08年12月から断続的に投稿した大津放送局のディレクター(27)を諭旨免職(同2月28日)にした。

 さらに、5月23日、静岡放送局の放送機材を盗んで起訴され公判中に容疑を認めた名古屋放送局の技術部専任エンジニア(44)を懲戒免職(同5月30日)。6月16日にも、前任の大阪放送局の備品である携帯電話やノートパソコン、デジタルカメラなどを持ち出したり私的に使っていた技術局総務部職員(41)を懲戒免職(同6月23日)にした。

 福地茂雄前会長時代の昨年10月、大相撲の野球賭博問題で家宅捜索に乗り出すという捜査情報を、報道局スポーツ部記者がメールで親方に漏えいしたことが明るみに出た。報道への信頼を失墜される行為だったが、記者は停職3カ月の処分にとどまっていた。

 契約外の利用を調査して突き止めたビデオリサーチだったが、同社幹部は「免職の処分までするとは思わなかった。予想外だった」と戸惑いを隠さない。

 松本会長は6月2日の定例記者会見で、不祥事の対応についてこう語った。「コンプライアンスのためには前提となる状況を除去するために、時間をかけた粘り強い作業が必要となる。大半の職員は不祥事に大変、心を痛めている。処分はきちっとする必要がある。処分については、一定の範囲の中で厳しくする必要があると思っている」

 4月25日付の幹部人事も、松本カラーが表れた。番組やニュースなど放送全般の責任者である放送総局長に、これまでの生え抜き組ではなく、トヨタ自動車出身の金田新・専務理事を起用したのだった。あるNHK関連団体役員は「福地前会長は高卒の営業担当理事を誕生させるなどのサプライズ人事をするとともに海老沢勝二・元会長に近い幹部を地方の放送局長に塩漬けにする一方、番組については放送現場に任せ、自ら手を突っ込まなかった。しかし、松本会長は番組内容にも口を出す、という姿勢に見える」と述べている。

 東日本大震災は災害報道で定評のあるNHKの存在感を確認させた。2月28日に金沢市の主婦の死体を遺棄した容疑でNHK金沢放送局の委託カメラマンが逮捕されたが、3月11日に東日本大震災が発生してからは、この事件はほとんど放送されず世間の耳目から消えるという副次効果もあった(カメラマンは4月13日に強盗殺人罪で起訴)。

 ネット時代を見据えた放送サービスの拡充については積極的な姿勢を打ち出している。

 就任から間もない2月3日の記者会見では、

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