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【ポスト・デジタル革命の才人たち】 高城剛さんに聞く 「ウェブの未来」――(1)震災で、日本的システムはさらに強力になってしまった

聞き手:服部桂・朝日新聞ジャーナリスト学校主任研究員

2010年、どうやら「電子書籍元年」は来なかった。今年も来る気配がない。新しいサービス、新しいガジェット、新しい暮らし、新しい世の中。21世紀の私たちはデジタルとどう向き合えばいいのか。1980~90年代から2000年代までの日本におけるデジタル革命の旗手で、常に時代の「渦中の人」、高城剛さんにじっくりと話を聞いた。

高城剛さん
たかしろ・つよし 1964年、東京生まれ。映像作家、DJ。日本大学芸術学部卒業後、ビデオアート作品などメディアの枠を超えた創作活動に入る。小泉今日子のビデオクリップや六本木ヒルズのCMプロデュースなどを手掛け、一時は「ハイパーメディアクリエイター」の肩書で話題の商品開発などにも携わる。テレビなど各種メディアへの登場も数多く、近年はロンドン、パリ、イビサ島などスペイン各地、上海、台北などDJ活動も盛んにこなす。2010年は、妻である女優・沢尻エリカとの離婚騒動が頻繁にマスコミに取り上げられた。著書に『デジタル日本人』(講談社)、『ヤバイぜっ!デジタル日本――ハイブリッド・スタイルのススメ』(集英社新書)、『「ひきこもり国家」日本』(宝島SUGOI文庫)、『オーガニック革命』(集英社新書)、『私の名前は高城剛。住所不定、職業不明。』(マガジンハウス)など。最新刊は『時代を生きる力』(マガジンハウス)。

◆「高城剛未来研究所」始めました◆

――高城さんは、ずっとメディアの「格好のネタ」として扱われてきた気がします。この1~2年はそのピークだったかもしれませんね。

高城 日本のマスメディアが年々酷くなってきたと感じます。誤報ならまだしも、最近よく自分の記事を見て「それ、誰? あ、僕のこと?」みたいなことがありますよ(笑い)。「取材を受けてないよ、これ」っていうのが。あまりにいい加減なメディアの状況はソ連の最後の頃と似ていますね。正直、国家の崩壊がはじまっていると感じます。

――ぐちゃぐちゃってことですか。

高城 あらゆる物事が信じられないほど、捏造だらけで、未来が見えない、すなわち国の未来が見えません。

――出版とか活字産業もそれ以外も、いろいろ終わりつつある。今まさに震災がその象徴なのかもしれません。

高城 そうですね。久しぶりに来たので朝日新聞社の中を回ってみたけれど、ここで働く人たちの多くが「ウチの社は、あと何年もつか」って言うくらいですからね。

――真面目に考えると、石原慎太郎都知事の天罰発言が冗談に聞こえない。

高城 聞こえないですね。石原さんも「この国はあと3~4年で破綻する」と言っています。

――このインタビューは月刊誌「論座」後継の「WEBRONZA(ウェブロンザ)」に掲載されます。アサヒコムの有料課金コンテンツです。記事の一部が同時掲載されることがある「朝日新聞デジタル」はPC版、Android版、iPad版が既にあり、iPhone版も7月にリリースされました。

高城 昨年、僕もiPad用のアプリを出して、うれしいことにダウンロード数が年間2位でした。「NEXTRAVELLER」っていう名前の無料トラベルアプリで「takashiro.com」から辿れます。そういえば、「論座」の何代目かの編集長は今、バルセロナで豆腐屋をやっていますね。

――大変だけど、なかなか繁盛しているそうです。「高城未来研究所」はこれからリリースですか。

高城 このメールマガジンは、6月23日から始まりました。日刊スポーツの芸能面(!?)に先行で出ましたが、最新の著書『時代を生きる力』の発売に合わせて立ち上がります。『時代を生きる力』は同じ出版社で今年2月に出した『私の名前は高城剛。住所不定、職業不明。』の続編。本当は1年後に出す予定だったんだけど、時代があっという間に変わったので8カ月前倒しで出すことにしました。

 こんな早いペースで書籍を出しても、時代の変化の方が早いと感じます。電子出版もいつまでも立ち上がらない。ですので、メールマガジンをはじめたのです。高城未来研究所のメールマガジンは、毎週金曜日の発行(月4回)で月額840円(税込)。こちらは、2カ所なり3カ所でデュアルライフ(二重生活)を送りたい人や住所不定になりたい人たちのための実践編にしようと思っています。中小企業にコンサルティングするなら、海外と日本の2本社制にしなさいと言うし、友達と4人で1人500万円ずつ出して2000万円で日本食の店をやりたいんだけど、世界のどこでやるのがいいですか、といった相談から、デザイン会社が上海か台北に拠点を置きたいときにどうすればいいか、といった相談までお手伝いする。

 メルマガの1回目は「タイのチェンマイに移住するにはどれぐらいお金が掛かるか」という話です。日本語で治療を受けられる病院はあるのかといった問題から、物価や食べ物の実態まで細かく解説しています。

――堀江貴文さんも月840円、つまり年1万円程度の価格でメルマガをやっていますね。

高城 新書にあわせた価格帯なんだと思います。マスコミで報道できない最先端の世界の経済事情なども含め、毎月10万字近くの文字量があります。他にも、自分で見てきたドイツの放射能研究所のレポートから、直感力を上げる方法、高城式健康法まで、かなりのボリュームで書いています。1カ月で、新書1冊分ほどの文字数はあると思います。

◆最新刊の2冊で考えたこと◆

――なるほど。まずは新しい本の話から伺います。マガジンハウスから立て続けに出した『私の名前は高城剛。住所不定、職業不明。』『時代を生きる力』の2冊には高城さんの最近の活動や考え方が集約されていると思うのですが。

高城 今年の年頭、2011年は執筆の年にしようと公言しました。というのはいくつかの理由があって、昨年言われた「電子書籍元年」がいつまでたっても始まらない。その間は当然、紙のメディアともお付き合いしなければいけない。僕は雑誌も含めた紙育ちの人間でもあるので、本を出すのはこれが最後の機会かもしれないと思って、はざまの時代を楽しもうと決めました。そのトップバッターが『私の名前は、高城剛。住所不定、職業不明』という、自分で自分のことを考える本でした。多くの人たちが自分自身のことを余りよく知らないようだけど、時代が不安定なときは自分で自分のことをちゃんと考える必要がある。じゃあ、そのサンプルとしてまずは僕が僕のことを考えてみるか、というのがテーマの本です。

 これだけ情報があふれている時代だから、みんな地図もカーナビもGPSも何種類も手にしていて、どこに行かなければならない、ここに行った方がいい、ということは分かりすぎるほど分かっている。でも、肝心の自分の今いる場所が分からない。本当に行くべき場所が分からない。自分を見失っている。あるいは最悪な現状を認識できていない。そういう人たちが余りに多い。今までの日本はある意味、一人一人が個性を出すことが許されない国だったわけで、まさに「出る杭は打たれる」でした。日本には「出る杭」になることを注意深く避けて個性を殺している優秀な人がたくさんいる。でもそれではもうやっていけないし、生きていけない。そこでもう一度、「自分とは何なのか」ということを見直すきっかけになる本を出したい。そう思いました。

 ところが、この本を出した直後に3・11、東日本大震災が起きた。同時に原発事故も起きて、時代は急速に変わってしまいました。何が変わったかと言うと、

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