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里子死亡事件、背景には構造的な問題

大久保真紀 朝日新聞編集委員(社会担当)

東京都杉並区で3歳の里子が亡くなるという事件がありました。後頭部に強い衝撃を受けたとみられる傷が複数あることなどから、警察は里親の声優(43)が暴行を加えたとして、この里親の女性を逮捕しました。里親は容疑を否認しています。

 里親は声優として活躍する一方で、2人の娘を育て、「社会貢献がしたい」という理由から、里親になったと聞いています。具体的な容疑の内容はまだ確定的には言えませんが、里子が亡くなったのは事実です。もし虐待死させたのであれば、許されないことです。

 しかし、善意で始まった行動から、結果として逮捕されるような事態に発展してしまうということは、気の毒でもあります。

 というのも、里子を預かるということはそう簡単なことではないからです。これまでにも、次のような事件が起きています。

■過去に起きた里親・里子間の事件

 2009年10月 5歳の女の子に繰り返し暴行して重傷を追わせたとして、大阪府警が大阪府の無職の女性里親(35)を逮捕

 2009年 8月 6歳の男の子を突き飛ばすなどしてけがをさせたとして、宮崎県警が宮崎市の小学校教諭の女性里親(38)を逮捕

 2006年 3月 1歳の男の子を揺さぶるなどして死なせたとして、千葉県警が同県佐倉市の無職の40代の女性里親を逮捕

2002年11月 3歳の女の子を殴って死なせたとして、栃木県警が里親の宇都宮市の主婦(43)を逮捕

(年齢、住所などは当時のものです)

 

 「子どもが好き」「子どもはかわいい」という思いだけでは里親は務まりません。というのも、生まれてからの親子関係が築かれていない子どもは「愛着障害」があり、大人を怒らせ、いらだたせるのが得意です。また、程度の差はあっても、どの年齢の子どもでも、「試し行動」をします。どこまで許してもらえるのか、自分を丸ごと受け入れてくれるかを試すものです。スパゲッティミートソースを3食食べ続ける、イチゴばかりを食べる、ごはんが見えなくなるほどふりかけをかける――など、子どもによってさまざまです。試し行動は数カ月から1年続きます。赤ちゃん返りなどの「退行」があることもあります。

 「虐待ケースになっていたかもしれない。自分の場合も紙一重だった」と吐露する里親は少なくありません。

 里親をしている50代の男性が、生まれてすぐ乳児院に預けられた3歳前の男の子を里子にしたのは10年ほど前のことです。最初は愛情を注いでかわいがればいいと思っていたそうですが、現実は違いました。

 家に来て早々、テーブルの上のかごに入った7、8個のみかんが丸ごとなくなっていました。「確かみかんがあったはずだが……」

 里子の口を開けさせると、皮ごとみかんを食べていました。この男性は皮をむいて食べるものだと教え、5キロ入りの箱を買いました。里子はそれを3日で食べ尽くしたそうです。

 それから半年間、里子は毎週10キロ入りのみかんを1箱ずつ食べ続けました。

 何か気に入らないことがあると里子はきーきーと高い声を出し、てこでも動かなくなりました。4、5時間すると疲れて眠ってしまうのですが、それまでは高いテンションで興奮し続けました。里親は正直イライラしました。

 一方で、知人の家に連れて行くと、里子はだれかれともなくべたべたと甘え、ほおずりをして自らキスまでしたそうです。里親は「こんなに一生懸命世話している自分には……」と思うと、帰宅途中に涙を止められませんでした。あまりの情けなさに、思わず里子の腕にかみついてしまったといいます。

 この男性は「いまはかなり落ち着いてきたが、本当にいくつもの山を乗り越えてきた」。里親の仲間に悩みを吐露するなどして何とかやってきたといいます。

 別の60代の女性が数年前に預かった3歳前の女の子は、親から身体的な虐待を受けてきた子で、大人が近寄るだけで大泣きしました。夜は泣きっぱなし、顔を洗うのも風呂に入るのも大声で泣き叫びます。周囲から「虐待しているんじゃないか」と

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