稲垣康介
2011年09月09日
力強いなでしこたちが8日、中国・済南で開かれているロンドン五輪アジア最終予選で3勝1分けとし、1試合を残して五輪切符をつかんだ。
7月にドイツ・ワールドカップで優勝したときのように、ポンポンと少ないボールタッチでパスを回す「見ていて楽しい」サッカーは披露できなかった。W杯の舞台だったドイツは世界屈指の環境で芝のメンテナンスも良い。一方、今回の中国はテレビ観戦していても、芝が深く、スパイクで踏ん張るとはがれるシーンもたびたび。得意のパスワークを生かしにくいハンディを乗り越える泥臭さがあった。
そのほかにもハンディがあった。自戒を込めてになるが、過密日程に加えて世界一で帰国してからのメディア狂騒曲だ。
近年、五輪をはじめスポーツでいったんスポットライトを浴びると、メディアが家族、恩師らを含めて一斉取材をかけ、丸裸にするのが恒例になった。
思い出すのが、北京五輪で感動の金メダルに輝いたあとの女子ソフトボールだ。殊勲のエース上野由岐子をはじめ、五輪後しばらく選手たちは引っ張りだこ。ふだんは観客がまばらな日本リーグの試合に数千人も詰めかけるのが情報番組で話題になった。
ただ、ソフトボールは北京五輪を花道に実施競技から外れることが決まっていた。「五輪種目至上主義」が今も残る日本のメディアが女子ソフトを取り上げる頻度は次第に減っていった。スポーツとしての魅力が少しも目減りしたわけではないのに。
メディアが五輪種目偏重の報道を変えればいいじゃないか、と言われると反論しにくいが、世間の関心もかなりのスピードで冷えていく。メディアが取り上げなくなるスピードよりも速いと思う。世間は移り気なのだ。
情報化社会の影響なのか、スポーツに限らず、お笑い芸人やアイドルの人気度も、「賞味期限」はどんどん短くなっている。
なでしこジャパンは「名誉市民」など地元自治体での表彰、首相への表敬訪問、国民栄誉賞関連の式典などの過密日程を、愚痴をこぼすことなく乗り越えた。ロンドン五輪切符をつかんだことで、来夏までメディアの優先順位で上位にランクされるに違いない。
さらに、何が頼もしいかというと主将の沢穂希をはじめ選手たちが、瞬間最大風速的に盛り上がり、すぐ冷めるメディアの習性を自覚しつつ、地に足のついた発言をすることだ。メディアを通して発信する言葉が
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