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メジャーリーグ公式戦の日本開催は問題だ

大坪正則(スポーツ経営学)

大坪正則 大坪正則(帝京大学経済学部経営学科教授)

 来年春、日本で米国メジャーリーグ(MLB)の公式戦開幕試合が開催される。MLBファンは勿論のこと、一般の野球ファンも大歓迎と思うが、スポーツビジネスの視点から考えると、日本のプロ野球(NPB)がMLB公式戦の日本開催を容認することには大きな疑問が湧く。今回は「フランチャイズ」について考察しよう。

 今から135年前の1876年、世界初のプロスポーツのリーグとして、米国で野球のナショナル・リーグ(NL)が誕生した。NLは1903年にアメリカン・リーグと統合してMLBを組成し、今日に至っている。NL創成時に当時の球団経営者は「フランチャイズ」(地域独占営業権)を各球団が保有することを定めた。この制度は、1人のオーナー(球団)対多数のファンの関係を作り出し、オーナーに有利な経営環境を与えてくれる。

 だから、もしもこの制度が独占禁止法の施行後に生まれていたならば、司法当局の間で相当な物議を醸したに違いない。幸い、1890年に(反トラスト法の一つである)シャーマン法が成立する前の出来事だったので、野球界は救われた。そして、今でもMLBのみならず、米国の全てのプロリーグがこの制度を採用している。

2004年、日本での開幕戦開催で来日したヤンキースの(左から)松井秀喜(現アスレチックス)、ジーター、ロドリゲス、リベラ

 米国のプロリーグと対比されるのがサッカー界だ。1888年に英国のイングランドにサッカー界初のプロリーグが生まれた。イングランドのクラブの首脳たちはフランチャイズを含む米国の経営システムを熟知していたが、翌年の89年に「昇格・降格」の制度を導入し、フランチャイズ制を否定した。また、彼らはもう一つ重大な決断をした。プロでありながら、アマチュア組織の協会の統治機構内に留まることにしたのだ。

 イングランドの決意は、サッカーの経営手法を米国のそれと完全に異なるものにした。米国のプロリーグが、欧米両大陸の相互不干渉を主張するモンロー主義を実行するように、世界一の市場を背景に米国内でのビジネスに特化したのに対して、サッカー界は結果的にコスモポリタン的世界を現出することになる。イングランドのプロリーグが将来を見据えてアマチュア組織の傘下に属することを決めたのかどうかよく分からないが、その後、イングランド同様、全世界のプロリーグが国際サッカー連盟(FIFA)、大陸ごとの連盟、国と地域の協会の管轄下に属することになったからだ。

 欧米の異なる経営システムを比べると、球団(チーム・クラブ)の損得勘定では

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