大坪正則(スポーツ経営学)
2011年10月29日
それから10年も経たずに、TBSはベイスターズ売却を迫られる事態になったが、昨年の交渉では最終合意に至らなかった。今年は、依然不透明な部分があるが、売却が成就する可能性が高い。そこで、なぜTBSは売却を決心するに至ったのか追ってみる。そこから、球団経営の本質が見えてくるし、経営改善策のヒントも得ることができそうだ。
マルハからTBSに譲渡される前のベイスターズの株主構成は、マルハ53・8%、ニッポン放送30・4%、TBS15・8%だった。この株式比率からも分かるように、マルハは最初にニッポン放送に株式譲渡を打診、ニッポン放送がそれを承諾した。プロ野球(NPB)の実行委員会とコミッショナーが親会社の交代を承認し、ニッポン放送がベイスターズの買収を公表した時、読売ジャイアンツから異議申し立てがあった。当時ニッポン放送の子会社であったフジテレビが東京ヤクルトスワローズの株式を20%保有していたからだ。
野球協約は「他球団の株式所有」を禁止している。そこで、急遽、買収先がTBSに変更された。ベイスターズの身売りに関連して、読売新聞社の渡邉恒雄主筆が時々「TBSに無理させたからな」と発言するのは、TBSが短時間でベイスターズを買い取らざるを得なかった背景を熟知しているからだ。
だが、TBSは一部上場会社である。無定見な買収は出来ない。当時のTBS役員から、以下の点が決めてになった、と聞いた。買収は納得尽くだったのだ。
(1)ベイスターズが黒字
(2)ベイスターズが株を保有する横浜スタジアムも黒字
(3)横浜対巨人の放送枠が3分の1から3分の2に増加
TBSの2002年3月期の有価証券報告書によれば、マルハが保有する全株式(53・8%)が140億円でTBSグループに譲渡された。140億円のうち、94億円をTBSが、そして当時TBSが23・4%の株式を保有する関連会社の(株)ビーエス・アイが46億円を拠出した。
ただ、ベイスターズにTBSが受け取れる約20億円の現金及び(手形など)現金同等額があったので、実際のTBSの支出額は74億円であった。経理処理上、約23億円がのれん(チームブランド)代として連結調整勘定に組み入れられて20年間の均等償却、また約60億円が広告宣伝価値として認められ、長期前払費用として計上されて5年間で均等償却されることになった。
次はベイスターズ。1997年にリーグ2位、98年はリーグ優勝と日本一。球場に大勢の観客が押し寄せ、人気も頂点に達した。しかし、1999年、2000年、01年は3年連続の3位。TBSが買収した2002年とそれ以降、チーム成績が急降下、観客動員力も低下して球団赤字が常態化した。赤字が続くために、TBSは球団の価値が半減したと判断した。2006年3月期決算で連結調整勘定の未償却残高約17億円と長期前払費用の未償却残高約12億円を一括して減損処理を行い、特別損失として計上した。
これらの経理処理によって、TBSの貸借対照表から球団関連の資産が消滅した。このことは、球団を売却すれば、その全額を特別利益に計上できることを意味する。
それでは、どのような要因がTBSにベイスターズ売却を促したのだろうか。
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