メインメニューをとばして、このページの本文エリアへ

理想と現実のギャップ。GMの苦悩

松瀬学 ノンフィクションライター

 こんなにカッコよくないだろう。大リーグのゼネラルマネジャー(GM)の仕事とは。『マネー・ボール理論』とはいわば、貧乏球団が金持ち球団に勝つための理想論である。だが実践するためには、旧い体質の球団職員や野球ファンの反発に耐え、血も涙もない冷徹な男に徹しなければならない。

 マイケル・ルイスの原作の翻訳本は読んでいた。オークランド・アスレチックスの辣腕GMのビリー・ビーンを追いながら、主題が、いかに大リーグの球団経営に革命をもたらすか、ということだった。そのビーンを、イケメン俳優のブラッド・ピットが演じる。いい役者だと思う。ただ娯楽作としては一級品に仕上がっても、ビーンのずる賢さ、深い苦悩をピットから感じ取ることはできなかった。

 有能なGMとは、嫌われ者でないとつとまらない。映画のピットは感動的なシーンも演じる。なかなか移籍先が決まらなかったスコット・ハッテバーグの自宅へ、ビーン役のピットが直接、契約しにいく。たぶん、そんなこと、GMはしないだろう。

 逆にビーンが球場のダグアウトで解雇を告げるシーン。選手は静かに受け入れる。なぜ修羅場にはならないのか。ビーンとて、つらそうに言うのだが、現実にはもっと冷酷な言い回しになるのではないか。場面があまりにも淡泊すぎるのだ。

 いずれにしろ、ビーンは絶大なる権力を持っている。言い合いの後、からだに触れたスカウト部長を即刻クビにする。選手のトレードでも独断でどんどんやってしまう。そこに情はない。数字と理あるのみ、である。

 みんな忘れているだろうけれど、

・・・ログインして読む
(残り:約669文字/本文:約1321文字)