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さざ波はいつか岩を溶かす(砕かない)

倉沢鉄也

倉沢鉄也 日鉄総研研究主幹

 日本の経済人はどうも「元年」が好きで仕方がないようだ。テレビにもケータイにも元年があったのだから電子書籍にも元年があるはずだという。そして新商品が出るたび「今度こそ元年ではないか」と、おそらく広告で雑誌を支えなければならない大手経済出版社のいくつかが電子書籍の特集を組んで、電車の吊り広告を見ただけのビジネスマンが毎度その気になってしまう。

 世界標準規格とは業界側によるコストダウンの協調策であり、究極的にはユーザー目線で行われる活動ではない。すでにコストダウンの必要性を見て取ったからこそEPUBが日本にも上陸しているにすぎない。要するに、世界的にも電子書籍を宝の山だと思っているビジネスマンはいない。

 楽天のコボタッチも、アマゾンのキンドルも、リアル書籍流通業のコストの無駄を解決して、利益率の向上を求めた結果だと見るのが自然だ。iPadほかタブレットPC端末がマイナーなアプリとして電子書籍リーダーを兼ねるのはごく自然であり、専用端末の販売で勝負しようとする電機メーカーこそが不自然な泥船に乗っていると言わざるを得ない。

 ……と、書き出してみたが、それは電子書籍のベースになっている出版市場をマクロに見たとき、電子書籍の本質はすでに明確になっているにもかかわらず、ピントの外れた夢を見るビジネス論調を嘆くゆえである。

 すでに記したWebRonza拙稿「電子雑誌なくして電子書籍の未来なし」(2010年07月08日)や、小職の連載対談記事「デジタルヲ読ム、読マセル、ト謂フコト~プリントメディアの近未来を語る~」(http://www.jri.co.jp/page.jsp?id=18047)(2009年冬~翌春)で論じてきたとおり、電子書籍とは、高収益だった雑誌とくに週刊誌広告収入の撃沈によって市場全体が崩壊した(しつつある、ではない)出版社側のやむにやまれぬ打開策と、在庫と物流のコストを削減したいネット流通側の合理化策が一致を見た動きであり、本棚の代わりとして万能端末の1アプリまたは非常に安価な専用端末が用いられるに過ぎない。

 その日本のネット書店の売上は出版市場の2~3割にとどまっており、残りの7~8割は書店でなんとなくながめた上で(=書名を特定して注文するのではなく)買われている。それにもかかわらず中小書店の閉鎖は止まらず、大手書店も大スペース化しても新刊点数だけ増えてラインナップは低利益で高速回転していく。

 書籍市場の1割が中古市場で、その過半数をたった1社が独占して

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