メインメニューをとばして、このページの本文エリアへ

関西テレビは「すり替え」問題を開示せよ(上)

水島宏明 ジャーナリスト、上智大学文学部新聞学科教授

  福島第一原発の使用済み核燃料プールで同時多発的な停電が発生し、冷却機能が長時間ストップした。冷却できない状態が続くならば2年前のメルトダウンの再現、さらには9千体近く存在する使用済み核燃料が損傷し、東京をも巻き込んだ大惨事に広がる可能性を想像させた。けっきょく停電の原因は一匹のネズミらしいが、当の東京電力に“重大な事態”だという認識はなかった。情報の開示も遅れ、常識的には「事故」としか言いようがない出来事を「事象」だと言い張る。思えば2年前の原発事故の時も同じだった。「爆発的事象」だと東電も政府も表現し続けた。

  つくづく組織というものは、不測の事態を過小評価し、本能的に責任逃れをしてしまう存在なのだと東電をみて感じる。過去の過ちから徹底的に学ぼうとしない。社会の常識が通じない。何より、重い責任を背負ったプロなのだという自覚がまるでない。反省してもその場しのぎ。残念なことにこの真理が当てはまるのは電力会社だけではないらしい。

 関西テレビのことだ。関テレがニュース番組で<大阪市の内部告発者>の映像だとして<自局の撮影スタッフ>の映像をすり替えて放送したことは、テレビの報道現場に長くいた私にとっても衝撃だった。いつかこのようなことが起きるのではと危惧していたからだ。ところが関テレは「不適切」だとしながらも「やらせ」にも「ねつ造」にも当たらないと釈明した。テレビ報道のプロを自認するならば「不適切」ですまされる問題とはとても思えない。「やらせ」「ねつ造」だと認めた上でしっかりとウミを出すべきではないのか。

 報道が伝えるところによると事実関係は以下の通りだ。

 関西テレビの夕方のニュース番組「スーパーニュースアンカー」で昨年11月30日大阪市の職員が新幹線の工事現場で深夜にアルバイトをしている実態を報道した。アルバイトは地方公務員法が禁じる兼業禁止に抵触する行為だ。このニュース取材のために関西テレビは内部告発者を局内の会議室でインタビューしている。告発者本人が姿を撮影されることを一切拒否したため、代わりに撮影スタッフの一人を「代役」にしてその後ろ姿を撮影した。ニュース放映の際にはその映像に誰だか分からないようなモザイクをかけ、内部告発者本人のインタビュー音声も誰だか分からないようにボイスチェンジして、モザイク映像と合わせて編集し、内部告発者当人が話しているように見せかけて放映した。

 3月13日、関西テレビは同番組内で「不適切な映像表現」だったと謝罪した。「やらせやねつ造はない」としながらも編集が不適切だったとして、担当者に口頭で厳重注意したという。「不適切」という言葉は、“重大な間違い”とまではいかないが誤解を招く問題があった不祥事と判断される場合に企業や官庁などが一般的に使用する言葉だ。はたして“重大な間違い”でなかったのだろうか。

 何を「やらせ」とし、何を「ねつ造」とするかは微妙な問題でテレビ界にも明確な定義があるわけではない。関西テレビは今回どちらも否定しているが、私自身は別人をあたかも本人であるかのように振る舞わせる撮影行為はテレビの禁じ手である「やらせ」そのものであり、話し手の声に別人の映像をかぶせる編集は「ねつ造」だと考える。テレビ報道の現場で30年間、そのように行動してきた。世の常識も同じだろう。

 この出来事が示唆するテレビの現状はかなり絶望的だ。一つは報道の仕事で最優先されるべき「事実・真実の確認」よりも「演出」、つまり「画のインパクト」や「映像的リアリティー」を優先させる思考が事実性を厳密に問うべき「ニュース」の記者や制作者にまで根深く浸透しているのが露呈したことだ。少し前まではバラエティ番組や情報番組でそうした過剰な演出があっても、報道局が作る報道番組、なかでもニュースでは絶対にありえないことだとテレビ内部の人間も信じていたし、外の人たちもそうとらえていたはずだった。その信頼が崩れ墜ちた。

 二つめは、6年前に民放業界に衝撃を与えた「発掘!あるある大事典22」ねつ造事件の、「あの関西テレビ」で起きたということだ。「あるある」事件の教訓がはたして現場に浸透していたのか、という疑念がわく。

 三つめは、報道されている関テレの対応を見る限り、「すり替え」発覚後も会社として問題を重大視していないように思えることだ。問題の本質を見極めて、再発防止の議論につなげる意識が乏しいように感じられる。多くの社員が悔し涙を流した6年前の「あるある」事件の後との落差は激しい。このため業界団体である日本民間放送連盟や第三者機関のBPO(放送倫理・番組向上機構)などを巻き込んで放送業界として改善策を探る動きにはなっていない。まるで「この程度のことは小さなこと」と会社や業界が共通認識しているような暗黙の空気を感じる。

 少し長くなるが、テレビ報道の一線にいた人間として、

・・・ログインして読む
(残り:約2843文字/本文:約4899文字)