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[10]沖縄人気質

中村計 ノンフィクションライター

 あれは2006年のことだった。八重山商工の練習風景を目の当たりにしたときのカルチャーショックは、今も忘れることができない。

 八重山商工は、沖縄本島の約400キロメートル南にある石垣島にある公立高校で、日本最南端の高校でもある。

 そこにあるべきものがないと、戸惑いが先行してしまい、欠けているものが何なのか気づくまでに若干の空白ができる。

 ……何かが違う。

 そうか。返事だ。彼らは監督に何か言われても返事をしないのだ。

練習中、怒鳴る八重山商工の伊志嶺吉盛監督=2006年、沖縄県石垣市

 打撃ケージの後ろで背を向けたままの選手に、監督の伊志嶺吉盛ががなる。

 「おい! 聞いてんのかーっ! ああ? シカトかあ! おい!」

 今どき、これほどまでに気持ちよく怒鳴り散らす監督も珍しい。

 「おまえは、いつも屁理屈ばっかりだからな。だから、そうやって人の話も耳に入らないんだよ!」

 ここでようやく振り返った。

 「屁理屈って何ですか?」

 「ばかーっ! それが、それが、屁理屈っていうんだよ!」

 まるでコントだ。

 それと、彼らは急ぐという観念を持ち合わせていなかった。練習の間も駆け足ではなく、のんびり歩いて移動する。直感的に、この島には「だらだら」とか「ちんたら」といったゆっくりとした動きを罵倒する言語は存在しなかったのだろうなと思った。

 正しい高校球児像の代名詞とでも言うべき「元気な声」と「全力疾走」の二つが欠けている風景というのは、わずかだが決定的な欠落感がある。

 さらにこんな光景にも遭遇した。

 放課後、ぼちぼち練習が始まるかなという頃である。セカンドベース付近に選手たちがたむろしていた。だが、

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