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田中将大のヤンキース高額契約は、日米球界に課題を突きつけた

大坪正則 大坪正則(帝京大学経済学部経営学科教授)

 東北楽天イーグルスからポスティングシステムを使ってメジャーリーグ(MLB)に挑戦を決めた田中将大投手(25)の移籍先がニューヨーク・ヤンキースに決まった。

 田中獲得のために、多くの球団が手を挙げたようだ。ヤンキースのほか、ロサンゼルス・ドジャース、ボストン・レッドソックス、ロサンゼルス・エンゼルス、シカゴ・カブス、シカゴ・ホワイトソックス、ヒューストン・アストロズ、アリゾナ・ダイヤモンドバックス、シアトル・マリナーズなどの球団名が挙がった。

  結局、田中は、ワールドシリーズ最多の27回優勝を誇る名門中の名門球団を選んだわけだが、私はもともとヤンキース、ドジャース、レッドソックスなど金持ち球団に決まると思っていたから、ヤンキースになったのは順当な結果と言えるだろう。

 今回の契約期間は7年、年俸総額は1億5500万ドル(約161億円)。これは投手としては以下のように、メジャー史上5番目の高額契約となる。

(1)クレイトン・カーショー(ドジャース)/2014-20年/2億1500万ドル(約224億円)
(2)ジャスティン・バーランダー(タイガース)/2013―19年/1億8000万ドル(約188億円)
(3)フェリックス・ヘルナンデス(マリナーズ)/2013―19年/1億7500万ドル(約182億円)
(4)C.C.サバシア(ヤンキース)2009―15年/1億6100万ドル(約167億円)
(5)田中将大(ヤンキース)/2014-20年/1億5500万ドル(約161億円)

 上位4人は、シーズン最高の投手に与えられるサイ・ヤング賞を獲るなど、メジャー有数の投手たちだから、田中のような「新人」選手にしては破格の契約だと言える。

ニューヨーク・ヤンキース入りを報告する記者会見が終わり、ホームグラウンドだったコボスタ宮城を去る田中将大投手=2014年1月23日 ニューヨーク・ヤンキース入りを報告する記者会見が終わり、ホームグラウンドだったコボスタ宮城を去る田中将大投手=2014年1月23日
 だが、この契約が妥当なものかどうか、その判断は難しい。

 7年契約では長すぎるのではないかという指摘もあるが、4年後に田中から契約を打ち切ってフリーエージェント(FA)になれる条項(オプトアウト)があるというから、メジャーで実績を残せば、29歳という、脂ののりきった時にFAになって、さらに好条件で他チームも含めて契約することができる。

 また、同じ日本人選手と比べても、ヤンキースのエース格になっている黒田博樹の1600万ドル(2014年単年契約)やダルビッシュ有(レンジャース)の6年総額5600万ドル(+出来高)に対して、田中の年俸がいかに高いかがわかる。田中にとっては、平均で2200万ドル(約23億円)という年俸はこれ以上ない契約と言えるだろう。

 しかし、この大型契約は、MLBとプロ野球(NPB)にとって、大きな課題を残したことも確かである。

 まずメジャーリーグ側の問題。2012年オフまでのポスティングシステムは日本の球団に支払う入札金額に制限はなかったが、13年オフからの新制度では、日本の球団に対して支払う譲渡金に「2000万ドル」という上限が設けられた。これによって、田中のような超一流選手がほしい球団は2000万ドルを支払う意思があれば交渉に参加することができるようになった。そのため、今度の制度には財政的にそれほど余裕のない球団でも交渉できるようになり、公平であるという利点が本来はあったはずである。

 しかし、フタをあけてみれば、MLBでもっとも資金力があるヤンキースに決まった。表面上は多くの球団が参加できる制度になっても、そこから先は自由交渉であるから、結局、貧乏球団には交渉参加というチャンスだけは与えられたものの、最終的には日本の選手を獲ることができないのだ。

 メジャー球団の場合、大都市圏の球団は地元のテレビ局の放送権利料収入が莫大になるため、そうでない球団との収入格差が大きい。ニューヨークという大都市にある人気球団ヤンキースに財政的余裕があるのはこのためである。

 こうした球団間格差は現状ではいかんともしがたい。しかも、新システムによって、契約金の高騰を招いたことはヤンキースのGMも認めている。この契約金が他の選手の契約などに影響が出ることもあるだろう。

 これでは「2000万ドル」という上限は何のためだったのかということになる。つまり、この新しいポスティングシステムは意味のあるものではなかったと言わざるを得ない。ポスティングもFA制度も、これでは同じである。

 次は日本の球界の問題。

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