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[6]団体戦で最高の煌めきを放ったユリア・リプニツカヤ

青嶋ひろの フリーライター

 フィギュアスケート団体戦で、オリンピックの雰囲気をつかめる。手ごたえや悔しさを、もう一度滑る個人戦の場に反映できる。そのアドバンテージは、初出場の選手だけでなく、個人戦に出場したすべての選手に与えられただろう。2度目の五輪ながら満足のいく演技ができなかった浅田真央や鈴木明子も、まだまだここから、気持ちを立て直して次に臨むことができる。今度は日の丸を背負うプレッシャーなどから解放されて、思う存分、自分のスケートができるだろう。

 そんな喜びを感じることは、国内の代表争いが厳しかった日本やアメリカ、ロシアの選手たちへのごほうびかもしれない。男子ならばスペインやカザフスタン、女子ならば韓国に彼らの強敵がいるが、彼らの国は団体戦の出場権がないほど選手層が薄く、国内戦が容易い。代表争いで疲弊することもなく、シーズン前半をたっぷりオリンピックの調整に使うことができる。この点はアメリカや日本の選手にはない有利さだ。

 一方で、団体戦で得たものを個人戦で生かすというステップを、彼らは踏むことができない。どちらのアドバンテージが選手にとって大きいのか? 誰がどう、団体戦の有無を個人戦に生かせるのか? ますます興味深い展開となった。

 しかし団体戦が良い経験値になることは、日本だけでなくライバル国の選手たちにも同じように言えることだ。

 女子ならばシーズン前半、あまり目立った活躍を見せず、メダル候補からはずされがちだったイタリアのカロリーナ・コストナーや、アメリカのグレイシー・ゴールド。彼女たちが生き生きとした表情で氷に立ち、鮮やかに3回転‐3回転を決める姿は、個人戦に向けて大きなアピールになった。

 今季のグランプリシリーズ、各国国内選手権、ヨーロッパ選手権などの結果から推測していたメダル争いに、オリンピック開幕後、団体戦での滑りが判断材料に加わるとは、今までのオリンピックにはなかった面白さかもしれない。

 そしてなんといっても、団体戦で最大の注目を浴びた選手は、ロシアのユリア・リプニツカヤ! 彼女ほどこの新種目が個人戦前に実施されるシステムを、巧く利用できた選手はいないだろう。

団体SPで首位になったユリア・リプニツカヤ団体SPで首位になったユリア・リプニツカヤ
 15歳8か月という、ほんとうに出場制限年齢ギリギリの若さ。にもかかわらず、グランプリシリーズのロシア杯やヨーロッパ選手権の優勝で、五輪優勝候補の重圧を課せられていた開幕前。

 その注目度の高さから、11月のロシア杯後、モスクワで日本の報道陣の共同取材に応えるシーンもあった。その時に彼女に接して感じたのは、15歳とは思えない自身や他者への冷徹さだ。

 あの、にこりともしない表情は彼女の素で、ほんとうにあの調子のまま、報道陣の質問に淡々と答えていく。

 基本的すぎる質問には「なぜいまさらそんなことを聞くの?」という厳しい表情を容赦なく見せたし、つまらない質問にはそっけなく応じるばかり。

 あの完璧なパフォーマンスにして、このキャラクター……たった15歳の少女の威圧感に、日本の記者たちはたじたじとなった。ロシア杯で優勝した瞬間も、自身のパフォーマンスに納得がいかず、キス&クライでは不満げ。「ここがロシアだから、私は勝てたの?」。そんな反抗的な気持ちを隠そうともしない。

 そんな彼女であっても、地元開催の五輪で、最も華やかな種目の優勝候補に持ち上げられるプレッシャーは、相当のものだったろう。もしいきなり個人戦からスタートとなっていたら、彼女といえど実力のすべては発揮できなかったかもしれない。

 しかし、まず用意された舞台は団体戦。チームメイトはプルシェンコを筆頭に、彼女よりずいぶん年上の、百戦錬磨のスーパースターばかりだ。彼らの力強い応援と、地元の観客たちの熱狂的な歓呼の中で、ショートでもフリーでも、ミスを最小限に抑えた滑りを見せる。

 興味深かったのは、ショートプログラム(SP)とフリーでの、彼女の動きや表情の

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