2014年02月14日
「結弦なんてついこの間まで、変なキノコ頭の少年だったのになあ……」
けなしているのか、褒めているのか。たぶん呆れるほど、感心しているのだろう。中学生のころから結弦を知る人が、ショートプログラムの彼の演技と結果を見て、そんな電話を日本からかけてきた。
そう、この際だからいろいろばらしてしまうが、彼はついこの間まで、ドリンクバーでコーラとメロンソーダを混ぜて喜んでいるような14歳だった。アイスショーでの自分の演技に興奮して、出演前の先輩スケーターにじゃれつき、「うるさいなあ、もうあっち行ってろ!」と叱られるような15歳だった。パトリック・チャン(カナダ)に大負けして悔しがり、「もうエキシビションも見ないで日本に帰る! 早く練習したい!」と駄々をこねるような16歳だった。
そんなことを全部ばらされても、今の羽生結弦だったら、余裕の顔で微笑んでいそうではないか。
ソチオリンピック、ショートプログラム。
本当に細かいことを言えば、彼の100%の演技ではなかったかもしれない。
この振り付けはあともう少しだけ、タメがあるのがほんとうだろうな、とか、彼のいつものジャンプに比べれば、トリプルアクセルの助走にほんの少し焦りが見えたな、とか……そんな余計なことを考えてしまうのは、「パリの散歩道」を見すぎているからだろう。
初披露は2012年の、夏のアイスショー。そこからショーで、試合で、2シーズンの間、何度見たかわからない。
でもオリンピックだからスケートでも見るか、と初めてこのプログラムを見た人には、充分見ごたえのある「作品」だっただろうし、初めてのオリンピックという場で、誰もが魔物にとらわれてミスをしていくなかで、これだけできればもう、及第点をはるかに超えている。
冒頭の4回転ジャンプなど、絶対失敗しないものの代名詞にしていいくらいの安定感。スピンの速さと無理のないナチュラルなポジションは、男子選手のものとは思えない「美」を感じさせた。
しかし彼は、なぜオリンピックという場に立ちながら、ここまで平気でいられるのだろう?
グランプリシリーズでも、全日本選手権でも、格のある大会はどんな試合でも、初陣は難しい。それがオリンピックとなれば、なおさら。
高橋大輔だって、チャンだって、プルシェンコ(ロシア)だって、初めてのオリンピックは軒並み、期待されていた結果を出せていない。あの荒川静香でさえ、初めての長野五輪はいっぱいいっぱいで、オリンピックの怖さと乗り切り方を十分理解した2度目の五輪で、金メダリストとなったのだ。五輪は
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