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《シリーズ》ウェブとジャーナリズム 早大Jスクール 田中幹人准教授インタビュー(4)完

聞き手:矢田義一WEBRONZA編集長

 Q. 今のようなネットの状況は過渡的なものなのでしょうか。

 田中 こうした情報環境は、今しばらくは増福されていくと考えています。メディア史的な観点からも、嗜好を増幅するためのメディアが影響力を増して、どんどん市場を席巻していく状況はまだ当分続くでしょう。

 いずれ統廃合が進んで、社会ネットワーク的にも、寡占状態がある程度生まれたところで初めて、有力なプレーヤーのなかから、「このままではいけないのでは」という声が上がってきて、経営者たちが「社会の公器として私たちがすべきことは何か」とか言い出し、本来のジャーナリズムに戻ってくるという流れではないか。

 それはかつて、新聞や雑誌が競争の果てにゴシップを煽るイエロージャーナリズムへと行きつくところまで行き着き、寡占が成立した後に整理される中で規範を意識していった歴史と同じ流れをたどるのでは無いでしょうか。

Q. ネットの時代ではそれは変わらないと?

田中 基本的には変わらないのでは、と思っています。もちろん、かつての新聞の黎明期と比べればまったく同じというわけではないところはあります。それは、この潮流に対する「これはおかしい」という指摘や声もネットで可視化されているのも確かであり、その影響のもとで変化していくからです。ただ、大勢としては同じパターンをとってもまったく不思議はない。

 あと何年くらいで落ち着くかを見極めようとして様々なウェブメディアの成長パターンなどを観察していますが、今のところは2030年代くらいだろうと個人的には考えています。これまでにも、こういうメディアのもたらす社会変化が収束するのにはだいたい1世代、30年くらいかかっているからです。

 歴史を振り返ると、ラジオもテレビも、登場してしばらくは強大な影響力を奮って、様々な試行錯誤が繰り返される。そして初期に於いては試行錯誤がなされるが、質が低く速度の速いコンテンツが勝つ状況が続く。そのうちに社会側の規範意識が共有されて落ち着くところに落ち着いてきました。

 それと同時に、いったん質的に低下したコンテンツも、ツールや表現手法の発達によって熟成されていく。そのためには約30年のサイクル、1世代くらいかかると思います。技術的進展はもちろんですが、使う側の人間の意識の問題としても1世代を経ると変わっていく。

 Q. 世代の交代というのが大きな要素なのですね。ただ、2030年代という、その根拠は。

 田中 2030年代の根拠は、ウェブ1.0から2.0、そこからソーシャルメディアという変化がありましたが、コミュニケーションの観点で、社会ネットワーク性を強くインターネットというメディアに提供した技術的発端はブロードバンドです。このブロードバンドの先進国への普及はほぼ2003年なんですね。

 1995年にインターネットが爆発的に普及し、ネットワークインフラの普及と利便性が向上したのは2003年。そうすると、2030年くらいになると、今は「リテラシー」として議論されていることが、かなり「常識」になる。バーチャルとリアルを分けることも完全にナンセンスと感じられているでしょう。そういうことを当たり前と思える世代が社会の活力の中心にきた時に、

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