2014年04月01日
見事なまでの、世界選手権初優勝だった。
ショートプログラム(SP)終了時点で、羽生結弦の順位は3位。オリンピック後の喧騒から逃れるように、帰国早々トロントに渡り、またとんぼ返りで、身体の調子は決して良くないと聞いていた。SPでは、ありえないような回転不足の上の転倒を見せてしまった。
フリーの朝の公式練習でも、4回転トウループは調子が上がらず、着氷しても首をひねりながら氷についたエッジの跡を見ている。回転が、足りない――いつもの自分のトウループが跳べていないことを、本人もわかっていたのだろう。4回転サルコウの方がまだ調子がいい様子に、人々は「これは羽生の優勝は難しいな」と感じていた。
オリンピックの疲れ、チャンピオンとしてのプレッシャー、ぶり返した古傷の痛み……。ショートプログラムの失敗には様々な要因があると言われたが、実は一番の理由は、4回転サルコウの「好調」だったのだ。
フィギュアスケートのジャンプは微妙なもので、ひとつ勘所をつかむと別のジャンプのそれを失ってしまうことがある。
たとえばトリプルアクセルを跳べるようになったばかりの選手が、一時的にダブルアクセルを跳べなくなったりするのだ。「トリプルを覚えたら、ダブルの跳び方を忘れちゃったんです」と、そんな悩みを聞くことは多い。
もちろんこうした微妙な部分をすべて調整して、選手は試合に出てくるのだが、羽生の4回転はまさにそんな状態だった。「絶対にオリンピックには合わせます!」と宣言していた4回転サルコウの、ソチでの失敗。これだけは絶対に、世界選手権で取り返してやる! と、彼はこのジャンプに並々ならぬ執念を燃やしていた。
短い期間で、なんとかサルコウの勘所はつかんできた。その代わりに、素晴らしい精度を誇っていた4回転トウループの方に、微妙なずれが生じてしまった。よく選手たちはこの状態を「ジャンプが行方不明」「4回転が迷子」「どこかに行っちゃった!」などと表現するが、跳べていたはずのジャンプが一時的に跳べなくなる辛い状況だ。
いかな羽生結弦でも、一朝一夕で戻せるものではない。だから
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