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本を読まずにいられない原体験を

薄雲鈴代 ライター

 「この頃の大学生は本を読まないから」と、嘆きのため息を聞いたのは、京都百万遍の古書店の親父さんからだった。すぐそこには京大のキャンパスが広がり、店頭には年度末とあって卒業生が後輩に残していった教科書が山積みにされていた。授業に必要なテキストですら売れなくなっているという。以前は、学生で埋め尽くされていた店内だったが、私が雑誌の取材で伺ったときには、古書フリークの旅行者の姿が見られるばかりであった。

 現代の学生は、とにかく忙しい。スマホを肌身離さず、寸暇を惜しんで画面と首っ引きである。ケータイを気にせずに本と向き合う時間などありはしない。しかも、本を読まなくても簡単に情報が得られ、ササッとレポートを仕上げることもできる。

 ところで大学生になるまでに、毎年夏休みに学生を縛るのが「読書感想文」である。私はライターをする傍ら、週に数時間、京都の高校で教鞭を執っている。そこで夏休みの宿題を見ていたときのこと、まったく同じ感想文が見つかったのである。これが昔なら、友だちの宿題を写したという他愛のないものであろうが、その感想文は、ある程度読ませるレベルに仕上がっていた。ずば抜けてはいないけれど体裁は整っている、というのが小賢しい。問い質してみると、読書感想文のサイトのものを拝借したという。ベテランの先生は慣れたもので、学生がカンニングする程度のサイトは網羅していて動じない。感想文サイトの引き写しも問題だが、それより愕然とするのは、それをしたのが母親だということである。

 一夜漬けで子どもの宿題を親が手伝うのは、いつの時代にも見られることだが、母親が率先してスマホで検索して、手頃な感想文を見つけて「あんた、これを写しとき」と

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