メインメニューをとばして、このページの本文エリアへ

角田ファミリーが狙った生活保護ピンハネと消えた受給者の足跡

小野一光 ノンフィクションライター

 現在までに判明しているだけで、周辺での死者・行方不明者が10人を超えている尼崎連続変死事件。未曾有の大量殺人事件であるにもかかわらず、2012年12月に主犯の角田美代子が兵庫県警本部内の留置場で自殺したことで、事件の全容解明には暗雲が垂れ込めている。

 この事件では兵庫県尼崎市に住む角田美代子が、自身の形成した”角田ファミリー”を率いて親族や第三者の家に乗り込み、恫喝を繰り返しながら家族間での監視や暴力を強要。多額の現金を奪い取り、その過程で多くの死者が出た。そのためこれまでは、角田ファミリーによる特定の家族に向けられた犯行ばかりが報じられてきた。

 私は一連の事件について、12年10月に尼崎市内の民家から3遺体が発見されて以降、現地での取材を始めた。最初のうちは明らかになった被害者の周辺から、やがて角田ファミリーの周辺へと取材範囲を広げていった。そうした流れのなかで、ごく一部の関係者から、「美代子は生活保護受給者を食い物にしていた。また、現在も逮捕されていないその仲間は、いまも同じことを続けている」との情報が入ってくるようになった。

 尼崎市の人口は約45万人で、そのうち生活保護を受けている住民は1万8千人近くいる(13年3月時点=同市ホームページより)。人口比率でいえば、兵庫県下でもっとも生活保護の受給率が高い自治体だ。それは行政によるセーフティーネットが機能していることの証でもある。

 やがて私のもとに、第三者を通じて情報提供者が現れた。その人物、A氏は美代子の内縁の夫である通名・東こと鄭頼太郎と留置場で同房にいた男性だった。

 A氏は頼太郎と雑談を繰り返すなかで、これまで明るみに出ていない殺人があること、さらにはそのなかに、生活保護費の搾取を目的に同居させられた人物がいるとの話を聞いていた。

 「いまから30年近く前に、アルコール依存症の母親と知的障碍を抱えた息子がいたそうや。美代子はその親子を手元に置き、

・・・ログインして読む
(残り:約1140文字/本文:約1974文字)