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大リーグ・田中将大投手の絶好調ぶりを科学する

団藤保晴(ネット・ジャーナリスト)

 大リーグ・ヤンキースに渡って開幕から無敗、6連勝中の田中将大投手、その投球を科学してみたい。日本のスポーツメディアはともすれば心理的な駆け引きだけを追い、目の前で起きている現象を物理的に説明しない。田中の投球は米国で最近は投げる投手が減った高速で落ちる魔球「スプリット」が威力を発揮している一方で、7球種の制球力を駆使して打者を幻惑、翻弄している。その配球の巧みさ、醍醐味がスポーツ面から伝わってこないのが残念だ。大リーグはボールの軌道を自動測定するシステムを導入、リアルタイムで見せてくれるようになった。これは日本には無い測定システムで、初めて田中の変幻自在な配球が目に見えるようになった。

 田中の魔球スプリットは分かっていて打てないという。空振りするか、引っ掛けてゴロになる仕掛けを、まず科学しよう。かつて大リーグで活躍した先駆者、野茂投手や佐々木投手のフォークボールは同じ落ちる球でも無回転か直球と違う回転なので、最近の打者は見抜いてしまう。田中のスプリットは直球に近い高速で、しかも直球のような回転をして落ちるから始末が悪いとされる。15日、メッツのレッカー捕手からスプリットで2三振を取った場面を切り出して引用する。

 最初の三振では高めの球から入っているのに、2回目の三振では低めから攻めている。しかし、いずれも3球目までに時速150キロの直球を2つ使って、速球を意識させているのは同じ手法。そして、いずれも4球目に緩い時速130キロ台半ばのスライダー。どちらも空振り三振になる5球目では、時速141キロのスプリットがストライクゾーン真ん中から大きく落ちている。打者は直球対応でバットを振りに行ったけれど、ボールはそこには無いのである。

 なぜ振りに行くのか、佐々木投手たちのフォークボールを取り上げた2000年の第92回「新・日本人大リーガーへの科学的頌歌」で打者の生理をこう説明している。「バットスイング開始からインパクトまでの時間は0.17~0.2secは要する。したがって、36m/s(130Km/h)以上のスピードのボールであれば、投手板とホームベースの中間地点にボールが到達した時点でスイングを開始しなければならない」

 例えば「2回目の三振」の2球目の直球と5球目のスプリットを軌跡で比べて欲しい。ホームベースとの中間地点で判断がつくか――フォークボールと違って直球のような回転まで見せているのだから、極めて困難と言える。

 投げ方について田中自身が《田中将大「僕がスプリットをマスターするまで」》でこう証言している。

 「スプリットはフォークよりも真っすぐに近いです。真っすぐの軌道から打者の手元でスッと変化すれば打ちづらいだろうと思っていました。スピードの緩いフォークは打者に見極められることも

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