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飲酒運転絶滅へ自動車メーカーの英断を求める

大矢雅弘 ライター

 福岡市の博多湾に架かる「海の中道大橋」で一家5人の乗った車が飲酒運転の車に追突されて海に転落し、幼児3人が犠牲になった痛ましい事故から8年になる。あの事故をきっかけに、飲酒運転の危険性が大きな教訓となったはずなのに、飲酒運転はなくならず、同じような惨劇が繰り返されている。

 北海道小樽市で7月に起きた、4人が死傷したひき逃げ事件はとりわけ悲惨だった。海水浴場近くの市道で4人がはねられ、3人が亡くなった。運転していた男は海岸で12時間にわたって酒を飲んでいたうえ、携帯電話を操作しながら運転し、前をよく見ていなかったという。

 国立病院機構久里浜医療センターの樋口進院長は「飲酒運転をなくすためには、アルコール依存症のドライバーに治療や教育を受けさせる仕組みを早急につくる必要がある」と指摘する。アルコール依存症は、飲まないと震えが止まらないなど自己抑制力が低下する精神疾患だ。

 厚生労働省の研究班の調査では、国内で治療が必要なアルコール依存症患者は約80万人と推計。依存症の疑いがある人は約440万人にのぼると推計されている。だが、自らを依存症と認めたがらないため、実際に治療を受けているのは約4万人と見込まれている。

 飲酒運転の再犯を防ごうと、さまざまな取り組みがなされている。

 福岡県では3児死亡事故以降、市民団体や同様の交通事故の遺族らを中心に、飲酒運転撲滅運動が活発化。全国で初めて違反者への罰則を盛り込んだ県飲酒運転撲滅条例が2012年に全面施行され、9月21日で丸2年となった。

 条例は、酒を飲んで車を運転して逮捕されたり、交通違反切符(赤切符)を交付されたりした人に、アルコール依存症の診断を受けるように促し、求める点が特徴だ。初めて検挙された人は受診が「努力規定」。5年以内に2回検挙された人は「義務」となり、受診したかどうかを県に報告しなければならない。違反すると5万円以下の過料が科される。

 福岡県健康増進課によると、施行後から今年7月末までの時点で、1回目で受診した人は1860人だった。一方、診断が義務とされた人は22人。だが、医師を通して「診断を受けた」と県に報告があったのは12人にとどまっている。うち2人がアルコール依存症と診断された。診断の報告が上がってこない10人には、まだ罰則は科されていない。

 昨春からは全国で、飲酒運転が原因で免許が取り消された人が運転免許を再取得するには、「飲酒取消講習」が新たに義務づけられた。講習者同士が飲酒運転について討論するなど、飲酒運転の危険性や悪質性を自覚してもらうカリキュラムになっている。講習は2日間だが、1日目と2日目の間に30日空けて、この間の飲酒量などを書く飲酒日記の提出が課せられている。

 8年前のあの事故をきっかけに、酒酔いや酒気帯び運転の罰則も厳しくなった。だが、酒を飲んでは何度もハンドルを握る常習の飲酒運転者には、罰則強化が抑制策として機能していないとみられる。厳罰化を知っていても、あるいは事故を起こす可能性があることを認識していても、飲酒運転をしてしまう悪質なドライバーを対象とした新たな対策が必要だろう。

 アルコール測定器製造大手の東海電子(静岡県富士市)の専務取締役で、NPO法人「アルコール薬物問題全国市民協会」(ASK)の公認飲酒運転防止インストラクター、杉本哲也さんによると、米国やカナダのほぼ全州や豪州では、飲酒運転の違反者に酒気を検知すると車を動かなくする「アルコール・インターロック」と呼ばれる装置の装着を義務づけているという。

 とりわけ、米国では、飲酒運転を2回、3回と繰り返す人ではなく、初めて飲酒運転をしてしまった人にも装置の装着を義務づけるという動きが各州で加速しているという。

 国内にも自主的に「アルコール・インターロック」を導入した運送会社や

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