2014年10月11日
(承前) 続くスケーティングの全体練習では、4回転ループを決められなかった悔しさをぶつけるように、とびきりの滑りを見せようとする。
「スケートだって、こんなにうまくなったんだよ!」
得意げな声が聞こえてくるような、生き生きした滑りだ。オリンピックチャンピオンとなってのち、どんなにまわりの評価や見る目が変わっても、どんなに忙殺されても、彼のスケートに向き合う気持ちは変わっていない。
それが本当に彼にふさわしいものだったことを見せるためにも、今年が真の勝負だということを、彼はわかっているのだ。
練習時間の、最後の最後――チーム全員がスケーティングを締めにしてリンクを上がろうとする中、彼だけがもう一度、ジャンプを跳びに行った。一度も決められなかった、4回転ループを、もう一度! どうしても皆が見ている前で、決めて見せたかったのだろう。しかし、これも失敗。
負けず嫌いの彼らしい姿に、思わず頬がゆるんでしまう、そんなトロントでの公開練習だった。45分が、あっという間。
「もう整氷車が出てきちゃいましたよ。早いなあ!」
実はこの日の翌日、よほど前日の公開練習が悔しかったのだろう。フリーの通し練習にて、4回転サルコウ、2度の4回転トウループ、2度のトリプルアクセルのコンビネーションを含むすべてのジャンプに成功、パーフェクトをやってのけたという。
今シーズンオフ、初めてのノーミス。そして3度の4回転をすべて入れたプログラムでの、初めてのノーミスだ。疲れていても、身体中が痛くても、やろうと思えばジャンプが跳べてしまうのも、この人の困ったところだ。
「誰もいないところで、跳べてもなあ!」と、悔しくもうれしい成果を得て、初戦のフィンランディアトロフィーに向かおうとしていた、その日――。
「背中も腰も、前よりひどくなっているじゃないか!」
さすがにドクターストップがかかったのだ。
ハードスケジュールの中、張り切りすぎた公開練習。あまりにも彼の身体には無理がかかっていた。
このままではピョンチャンまで4年もたないどころか、今年のシーズンインまでもたない。そこまで言われて、強制的に練習は禁止、自宅で安静。
そこからは毎日、腰を中心に
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