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[2]宇野昌磨、スーパースケーターへの道

羽生結弦「ひとり勝ち」ではなかった全日本選手権

青嶋ひろの フリーライター

 全日本選手権、男子シングルフリー、最終グループ。

 リンクに飛び出した6人の選手たちを見て、興奮を押さえられなかった人は多いだろう。

 アフター五輪の全日本選手権。13-14シーズン、あれだけのメンバーで熾烈な五輪代表争いが演じられた後だというのに。高橋大輔、織田信成の大黒柱ふたりが抜けてしまったというのに。

 この役者の揃いぶりは、いったいどういうことだろう。

 ご存知羽生結弦、町田樹のふたりは、オリンピアンにして現世界選手権メダリスト。先輩格の小塚崇彦も、4シーズン前の世界銀メダリストだ。さらに無良崇人、村上大介と今季グランプリシリーズを1戦ずつ制した駿馬がいて、ダメ押しに宇野昌磨はジュニアグランプリファイナルを獲ったばかりの超新星。

 6人が揃って出てきただけでも、わくわくする――かつて日本の女子も、そんな時代が長く続いていたな、とふと思い出してしまった。

 村主章枝、荒川静香、恩田美栄、中野友加里、安藤美姫、浅田真央がそろい踏みした2005年の全日本選手権。荒川、恩田が抜けた後も、鈴木明子、武田奈也が加わり、最終グループ6人全員がグランプリシリーズメダリストだった08年の全日本選手権。

 一国の国内選手権でありながら、グランプリシリーズよりも、ヨーロッパ選手権や四大陸選手権の最終グループよりもレベルが高いだろう、と震えが走った一時期の日本女子シングル。それと全く同じ状況が、日本の男子シングルで、オリンピックシーズンが終わった後も続いているのだ。

 「いや、むしろ13年よりもレベルが高いのでは? ここに高橋や織田が戻ってきたとしても、やすやすとは戦えないメンバーがそろってしまったぞ」

 まったくもって、そのとおりだ。

 全員が4回転ジャンパーであることは、言うまでもない。その6人が、限られた6分という時間、一年でいちばんたくさんの人の目が集まるこの短い時間に、全員揃って、これでもか、とジャンプを跳び合う。

 あちらで誰かがぱしっと4回転を決めたかと思うと、こちらで誰かが4回転‐2回転をふわりと降りる。すれすれのところで滑りが交わった二人が、次の瞬間、リンクのこちらと向こうで、同時にジャンプを決める……。一年に一度の、男たちの究極の意地の張り合いが見られる瞬間だ。

 もしかしたら彼は、他の5人のことなど気にせず、淡々と自分の練習をこなしているだけなのかもしれない。もしかしたら彼は、この張り詰めた空気から一刻も早く逃れたいと、縮こまっているのかもしれない。でも傍目には、全員が究極の負けん気を全方位に迸(ほとばし)らせているように見える。

 「お前が跳ぶなら、俺も跳ぶ!」と。

 この6分であまりに張り切りすぎてしまい、本番の4分30秒は全選手がふらふら……。そんな時代も、確かに数年前の日本男子にはあった。

 いやむしろ、毎年恒例の全日本選手権名物。ほんとうは全員4回転が跳べるのに、ひとりも試合で決められなかった……などという時代も、ついこの間ではなかっただろうか。

 しかし、2014年の全日本選手権。

 オリンピックチャンピオンが滑る史上初めての全日本選手権。凄いのは、五輪王者だけではなかったのだ。

 滑走順に追いかけてみよう。第一滑走は、宇野昌磨。

宇野昌磨宇野昌磨はどこまで伸びるのか?
 全日本選手権前、宇野昌磨は表彰台に乗るのではないか、お兄さんたちを食ってしまうのではないか。そんな予想は、連盟関係者も、ジャッジもコーチ陣も、しきりに交わしていたようだ。

 しかし表彰台、どころではない。人々の予想を超える総合2位という結果は、いろいろなことがありすぎた今大会、1、2を争うセンセーションだった。

 驚いたのは、特にショートプログラム。宇野昌磨にとって人生で初のショートプログラムでの4回転挑戦。これを難なく決めてしまい、しかもGOE+1.4という、エリートジャンパー級の加点がつく4回転を見せつけてしまったのだ。

 もちろんトリプルアクセルも、ショートとフリー、ともに着氷。ともに14年になってから身につけたばかりの大技を、究極の激戦、全日本選手権で成功させてしまう強心臓に、まず驚く。

 そして同じくらい驚いたのは、

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