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大阪や福岡の基地引き取り運動が問いかけるもの

辺野古移設で対立深まる政府と沖縄県、米軍基地の74%が集中する沖縄の要求に応える

大矢雅弘 ライター

米軍の普天間飛行場。左奥は嘉手納基地=2015年5月17日、沖縄県宜野湾市米軍の普天間飛行場。左奥は嘉手納基地=2015年5月17日、沖縄県宜野湾市
 沖縄県の米軍普天間飛行場の名護市辺野古への県内移設をめぐり、日本政府と沖縄県の対立が深刻化している。政府は、辺野古埋め立ての承認取り消しを撤回するよう県に指示したが、翁長雄志知事が拒否。このため、知事を提訴し、法廷闘争に入った。

 普天間移設の原点は周辺住民の危険性除去である。政府は「辺野古が唯一の選択肢」と繰り返し、辺野古への移設か、普天間の固定化(継続使用)か、とひたすら二者択一を沖縄に迫る。

 日米安保体制に伴う犠牲を沖縄だけに負わせ、その恩恵である平和と安定を本土が享受する。そんな本土の差別や植民地主義と決別するために、「もう一つの解決策」として沖縄の米軍基地を本土に引き取るという新たな市民運動が各地で動き出している。

  大阪で今年3月に市民団体「沖縄差別を解消するために沖縄の米軍基地を大阪に引き取る行動」(略称=引き取る行動・大阪)を立ち上げたのは福祉職員の松本亜季さん(33)だ。

  松本さんは大学3年の時、講演会がきっかけで沖縄の人々が米軍基地とどう向き合っているのかを知った。初めて辺野古や伊江島、沖縄本島中部の読谷村へ足を運んだ。

  翌年の2004年には、辺野古沖で国が地盤を調べるボーリング調査を始めようとしたのに対し、調査を阻止しようと住民らが始めた抗議の座り込みにも約2カ月間参加した。それを機に同年8月、松本さんは友人と大阪で「辺野古に基地を絶対つくらせない大阪行動」を始めた。毎週土曜、JR大阪駅前でチラシを配ったり、マイクで訴えたりして辺野古の現状を訴えた。当時は辺野古の問題がまったく知られていない状況だった。「知られていけば、必ず止まる」と信じていた。

  07年からは、大阪市大正区で開かれ、数千人の来場者がある沖縄の盆踊り「エイサー祭り」の会場で、基地問題の展示にかかわるようになった。大正区は住民の4分の1にあたる約1万7千人が沖縄出身者といわれ、「ウチナーンチュ(沖縄人)の街」とも呼ばれる。この大正区にある私設図書館「関西沖縄文庫」の主宰者、金城馨さん(62)は、復帰後も一貫して変わらない沖縄差別の現実を見つめ、「どうすれば沖縄が日本と対等な関係を築けるのか」を問い続けてきた。松本さんは金城さんらが催す講演会などにも足を運び、沖縄の過重な基地負担を差別や植民地主義の視点からとらえる人たちと議論を深めていった。

  大阪行動を始めてから10年間の行動を振り返るなか、松本さんの意識の中に強く立ち上ってきたのは「基地を持って帰ってほしい。引き取ってほしい」という沖縄からの声だった。この声に初めて出あったのは04年に辺野古で座り込みをした時だった。当時は「基地の存在を認めることになり、『戦争反対』という理念に逆行する」などと考え、本土移設には賛同できなかった。

  ところが、辺野古の問題が本土でも広く知られるようになっても、辺野古への移設の動きが止まる様子はなく、むしろ、政府の沖縄への差別的な対応がひどくなっていく。そんな状況を前にして、松本さんは「辺野古にもどこにも基地はいらない」というスローガンでは超えられない課題があると痛感した。

  大阪行動を始めたとき、最もやりたかったことは、反戦平和の運動ではなく、沖縄と日本の不均衡で、不平等な関係を少しでも変えたいという視点からの「辺野古の基地建設反対」であったと改めて強く意識した。その視点に立った時、「基地を引き取ってほしい」という沖縄の声に真正面から向き合わなければ、もうどうしようもないという駆り立てられるような思いに至ったという。

  「引き取る行動・大阪」は活動の第1弾として7月、金城馨さんらの「沖縄に基地を押しつけない市民の会」に共催を呼びかけ、大阪市大正区で集会「辺野古で良いのか もう一つの解決策」を開催した。この集いで、6月に「沖縄の米軍基地『県外移設』を考える」(集英社新書)を出版した哲学者で東京大大学院教授の高橋哲哉さんが講演した。

  国土のたった0.6%にすぎない沖縄県に全国の米軍専用施設面積の73.8%が集中しているという現実。高橋さんは著書で、沖縄への米軍基地押しつけは、差別と犠牲のシステムだったと指摘。沖縄では今、「日本人よ!今こそ沖縄の基地を引き取れ」という要求が広がっているとして、次のように述べる。

  「私は『今こそ』、『日本人』はこの声に応答しなければならないと考える。そして私の応答は、『イエス』というものである。『日本人』は、沖縄の米軍基地を『引き取る』べきである。政治的・

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