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東京の「ポケモンGO」熱中組と京都の観光客

深夜の異様な集団現象に感じた戦慄、不作法さが目につく古都観光

薄雲鈴代 ライター

深夜にもかかわらず「ポケモンGO」に熱中する人たち=2016年7月28日、東京都墨田区の錦糸公園深夜にもかかわらず「ポケモンGO」に熱中する人たち=2016年7月28日、東京都墨田区の錦糸公園
 この夏、名所江戸百景を訪ねようと東京へ出かけた。

 江戸情緒に触れたくて、まずは上野不忍池で弁天堂にお詣りして…と思ったところ、仰山の人だかり。盆踊りか、花火大会か、何だこれはと思っていると、老若男女みな手にスマホを持っている。なんとなく焦点の定まらない顔つきで徘徊(たもとお)っている。訊けばポケモンのキャラクターが出没したという。‘ギャラドス’だか‘ハクリュウ’だか、みんな呟きながら列をなしている。これが噂の「ポケモンGO」かと、目の前の光景に唖然とした。

  いつもは閑散としている不忍池が、人で溢れかえっていて、結局弁天堂までたどり着けなかった。しかたなく、上野駅前の酒場に入ると、隣の席では壮年の男性3人組がポケモン談義で盛り上がっていた。酒を酌み交わすどころか、スマホの画面の見せ合いっこに夢中である。通勤途中も電車の中で起動したままにしているらしく、そこで捕獲(?)したキャラクターを自慢する某氏。それを見た同僚たちは「カッコイイっすね」と褒めたたえる。思わず隣席を見(み)検(あらた)めたが、どう見ても40は過ぎている男たちである。

  なんとなくニュースでは見知っていたが、実際に目にするとその異様さに開いた口がふさがらない。ここでは、オリンピックも高校野球もましてや終戦記念日のことなど話題にものぼらず、スマホの中のピカチュウが席巻していた。

  夜半、不忍池はもっとすごい状況になっていた。どういう情報が流れたのか、みんなが一斉に移動しだしたのだ。不忍通の歩道は人で溢れ、蟻の行列のようにつづいている。みんな手にスマホを持ち、自転車の人は前輪の籠にスマホを入れている。

 宵闇に画面の閃光が人々の顔を青白く照らしていて、そのせいか無表情に見える。目は虚ろだ。まるでエイリアンに人格を奪われて彷徨いゆく人のようで、映画の一シーンを観ているみたいな光景である。上野公園の高台にある清水観音堂から道行く人を眺め、奇妙な戦慄を覚えた。

  京都に「ポケモンGO」が出没しないわけではない。聞くところによると、嵐山や平安神宮や八坂神社にもそのキャラクターが現われるらしい。しかし、東京で遭遇した集団現象のように興奮状態の人は見かけない。

  上野の清水観音堂のモデルとなった京都の清水寺は、ポケモンが出没しなくても、連日観光客でにぎわっている。今夏も凄い人混みであった。特にお盆の頃は

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