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五輪とスポーツの価値を前向きに見い出す1年に

2020年東京五輪に向けてどこまで続く? 予算、経費削減の綱引き

増島みどり スポーツライター

 2016年年末、2020年東京五輪大会組織委員会(森嘉朗会長)、東京都(小池百合子都知事)、政府(丸川珠代五輪相)、IOC(国際オリンピック委員会)による年内最後の「四者協議」が東京・港区で行われた。

  焦点は、11月末の同会議で議論となった大会総経費。組織委員会が「総経費は2兆円を切る」と試算を提示したが、IOCから「高過ぎる。もっと削減できるはずだ」と厳しい指摘を受けた数字が1カ月を経てどう変わるか。12月21日、ジョン・コーツ副会長らがテレビ電話で参加した会議はその数字を巡り、四者がそれぞれの立場を主張する展開で、記者会見を含めて約1時半に及ぶ長丁場となった。

  組織委員会が新たに行った総経費試算は1兆6000億円から1兆8000億円。2兆円から削減されたものの組織委員会自体の予算上限は5000億円とし、残る1兆1000億円から1兆3000億円について東京都や国、さらに会場を置く自治体に負担を求めた。

  小池都知事がバレーボールと車椅子バスケットボールに使用する「有明アリーナ」の新設を改めて表明、これが承認され「400億円の経費削減に成功した。プロセスも公開できた」と胸を張る着地とは別に、1兆3000億円の負担を巡る新たな問題が湧き起こった。

  埼玉、神奈川、千葉それぞれの首長は早速「立候補ファイルに書いていない負担金は認められない」と激しく抗議。しかし、組織委員会・森会長は「立候補段階の招致ファイルは、組織委員会ではなく東京都が作成したもの。私たちは関知しない」と反論し、予算を巡っての対立は、今後さらに激化する模様だ。

  五輪が肥大化し、「オリンピックムーブメント」というIOCの錦の御旗のもと、開催都市が負担する費用もまた莫大になった。このため、開催の力を持った各都市が住民投票で立候補の是非を決定するなど、税金を払う住民の意思によって五輪開催が揺れる現状に、IOCは「そして誰も手をあげなくなる」五輪招致消滅の日を心底恐れている。費用削減をより積極的に推進する指針を出し、東京の削減を後押しするのはこうした背景からだ。

すでにある立派なレガシーにも注目を

  無駄使いを容認するわけがない。もちろん、極めて不透明な費用がかさむプロセスも問題だ。総経費がもっとも多かったのは08年の北京五輪とされインフラ費が桁はずれで約3兆4000億円。12年のロンドンは約1兆1450億円と、当初の予算を下回る決算報告がされるなど、数字は流動的だろう。現時点の1兆8000億円が「縮小される可能性もある」(武藤事務総長)が、さらに膨らむ可能性もないわけではない。

  加えてリオデジャネイロ五輪で史上最多となる41個ものメダルを獲得した日本選手たちへの期待感や、国際大会を開く高揚感より五輪への嫌悪感も漂っているようにさえ思う。五輪→お金がかかる→税金の無駄使い→レガシーは負の遺産。こんな図式のもと、400億円をカットした都が支持され、オリンピック、スポーツが無駄使いのシンボルとして扱われる状況が残念でならない。

  横浜アリーナ改装が検討されるなか、例えば1964年の東京五輪で女子バレーボール「東洋の魔女」が獲得した金メダルが、どれほどのレガシーを日本スポーツ界にもたらしてきたかについて議論される機会はなかった。

  水泳のアクアティクスセンターの建設を巡り、日本が先進国に追い付こうとした時代、「フジヤマのトビウオ」と世界中で注目と敬意を集め、日本をけん引した競泳の古橋広之進さんについて、その偉大な経歴をプールに残そうといった計画もなかった。

  「東洋の魔女」は、

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