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少年法適用年齢、引き下げでなく引き上げるべきだ

引き下げの動きには非行少年の処遇決定権を家裁から検察へ移す意図

高岡健 児童精神科医

 少年法の適用年齢を、引き下げようとする動きがある。この動きは、非行少年に対する処遇の決定権を、家庭裁判所から検察官へ移す意図を伴っている。私は、それらのいずれにも反対だ。むしろ、適用年齢を引き上げて、家庭裁判所の権限が及ぶ範囲も拡大すべきだ。

引き下げの主張は精神的過渡期の延長と矛盾する

毎朝、体育館で行われる京都医療少年院の朝礼=京都府宇治市
 大正時代に成立した旧少年法は、少年年齢を18歳未満と定めていた。戦後、旧少年法の全面改正によって誕生した現行少年法は、それを20歳未満へと引き上げた。そのモデルは、当時のアメリカの少年裁判所法だったといわれている。

 21世紀の現在、現行少年法の適用年齢を、さらに引き上げようとするのなら、話は分かる。文明が発達すると、生物としての人間の寿命が延びる。すると、子どもから大人になるまでの精神的過渡期も延長する。このことは、経験的にも学術的にも明らかだ。だから、かつて18歳から20歳へ少年年齢の上限を引き上げたように、今度は21歳なり25歳あたりにまで、もっと引き上げるべきだというのなら、それは理屈に合っている。

 実際に、犯罪対策閣僚会議による再犯防止に向けた総合対策(2012)は、少年期から続く成人後の数年間は可塑性に富み、社会復帰のための環境も整いやすいことから、少年とともに若年成人に焦点を当てた取り組みを、強化する必要があると指摘している。筆者が関与した事例にも、少年院を仮退院中であった21歳の青年が、少年期から続く精神疾患ゆえに惹起した犯罪の例があるし、それ以外にも、少年非行と同一の特徴を持つ青年犯罪の事例は少なくない。このように、年長少年の更生と20歳代はじめの青年の更生が連続したものであるという考え方は、児童青年精神医学の立場からも首肯できる。

 言い換えるなら、少年年齢上限引き下げの主張は、文明の発展と軌を一にした精神的過渡期の延長という事実と、明らかに矛盾する。にもかかわらず、少年法の適用年齢をめぐる議論のほとんどは、引き下げに賛成か反対かといった矮小な範囲に終始し、引き上げの可否についての議論は乏しい。だが、いま必要なのは、むしろ適用年齢引き上げに向けた、大胆な問題提起であろう。

問題は適用年齢のみではない

 旧少年法が全面改正されて現行少年法になったとき、大きく変化した点が、もう一つあった。保護処分か、それとも刑事処分かの決定を、検察官ではなく家庭裁判所が行うようにしたのだ。

 そのため、現行少年法に対しては、

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