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[3]高齢者が安心して暮らせる住宅はどこに?

深刻化する入居差別と「受け皿」と化す貧困ビジネス

稲葉剛 立教大学大学院21世紀社会デザイン研究科客員教授

困難を極める単身高齢者の部屋探し

 昨年12月、私が代表を務める一般社団法人つくろい東京ファンドが運営する個室シェルター「つくろいハウス」(東京都中野区)に80歳の男性が入所した。

 佐久間さん(仮名)は月に十数万円の年金収入があるものの、2年前、住んでいたアパートが老朽化して取り壊しになり、立ち退きを余儀なくさせられた。すぐに次のアパートを探したものの、不動産店で自分の年齢を告げると、どこの店でも「それは難しいですね」と言われ、退去までに次の部屋を確保することができなかった。仕方なく、荷物を処分して、カプセルホテルに移り、部屋探しを続けたものの、いつまで経っても見つからない。そこで、ホームレス支援団体に相談し、私たちのシェルターに入居することになったのだ(プライバシー保護のため、個人情報の一部を変えてある)。

 「つくろいハウス」は、ホームレス状態にある人がアパートに移るまでの一時的な待機場所であり、近隣の不動産店の協力も得て、入所者がアパートに移るためのサポートも行っている。しかし、佐久間さんの部屋探しは困難を極めた。ご自身は持病もなく、足腰もしっかりしているのだが、その年齢ゆえにアパートの大家さんたちが孤独死を恐れ、受け入れてくれないのだ。アパートに入居した後も私たちが緊急連絡先となり、定期的な安否確認を行うと言っても、受け入れてくれる物件はなかなか出てこなかった。

 私は過去に80代の単身高齢者の部屋探しを何度かお手伝いしたことがある。その際に協力してくれた知り合いの大家さんに今回もお願いしようと思って連絡をしたところ、大家さん自身が高齢になったため、すでに代替わりしていて、アパートの管理や入居審査は不動産会社に任せることになったという。その管理会社の担当者は親身になって話を聞いてくれたものの、検討の結果、やはり80代の単身者の入居は無理と言われてしまった。

 その後も各方面をあたった結果、最終的に今年2月下旬、佐久間さんはなんとか6畳一間の風呂無しアパートに入居することができた。ご本人は「銭湯が好きだから風呂無しアパートでも良い」と言っていたが、バスルーム付きの物件にこだわっていれば、いつまで経っても部屋は見つからなかったかもしれない。

貧困ビジネス施設が「終のすみか」に

 佐久間さんのように、住んでいた賃貸住宅を立ち退きによって追われてしまう高齢者は少なくない。首都圏では2011年の東日本大震災以降、耐震性の弱い木造賃貸住宅の取り壊しや建て替えが進んでおり、その結果、そこに暮らしていたお年寄りが住まいを失ってしまうケースも散見される。立ち退き料が支払われたとしても、次に入居する住宅が見つからないために、高齢者がホームレス化してしまうのだ。

 こうした木造賃貸住宅(木賃アパート)は、戦後の住宅難の時代に作られたものが多く、かつては山手線を取り囲むように「木賃ベルト」と呼ばれる木賃アパート密集地域が広がっていた。木賃アパートの家賃は安く、かつては地方から都市に流入した学生や労働者の受け皿になっていたが、現在暮らしている住民の多くは低年金の高齢者だ。例えば、年金収入が月10~11万円しかない単身高齢者が家賃3万円の風呂無しアパートに暮らしているといった具合である。

 立ち退きによって木賃アパートを追われた高齢者はどこに行くのだろうか。木賃アパートが建て替えになる場合、ワンルームマンションが新たに建てられることが多く、それに伴って家賃は月6万円以上に上昇することになる。家賃をまかないきれないため、新しい物件に入れない高齢者の中には、立ち退きをきっかけに福祉事務所に相談し、生活保護を申請する人もいる。収入が生活保護基準(東京都内で単身世帯の場合、住宅費を含めて約12~13万円)を下回っており、資産がほとんどないといった要件をクリアすれば、年金生活者でも生活保護を利用できるからだ(この場合、生活保護基準と年金額の差額が保護費として支給される)。

 しかし、生活保護制度を利用しても、行政が住まいの確保にまで動いてくれるケースはまれである。福祉事務所の中には、

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