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深刻な原発事故を招く構造は今も変わらない(下)

推進、反対の力関係が最善の結果を選び取れない「囚人のジレンマ」構造

武田徹 評論家

7年間で何が変わったのか

 では3.11後に構図は変わったのだろうか。

佐賀県オフサイトセンターで、玄海原発から30キロ圏の首長らと原子力規制委員会の更田豊志委員長らが意見交換した=2018年2月11日、佐賀県唐津市佐賀県オフサイトセンターで、玄海原発から30キロ圏の首長らと原子力規制委員会の更田豊志委員長らが意見交換した=2018年2月11日、佐賀県唐津市
 たとえば2012年9月19日に従来の原子力安全委員会に代わって原子力規制委員会が設置されている。日本の原子力行政の問題として、原子力委員会や原子力安全委員会が原子力推進の主体である国の組織として作られ、行政権力からの独立性を持たなかったことが常々指摘されていた。そうした指摘に応えて原子力規制委員会は独立行政委員会として3条委員会として作られた。

 だが、実際には規制委員会やその事務局である原子力規制庁の独立性には疑問が投げかけられている。規制委員には「人格が高潔」で「原子力利用における安全の確保に関して専門的知識および経験並びに高い識見」を持つ人物が、「両議院の同意を得て、内閣総理大臣が任命」する。

 そして、その選任に際しては「就任直近3年間に同一の原子力事業者等から個人として一定額以上の報酬等を受領していた者」は除外されるというガイドラインが設けられていた。

 しかし、原子力関係の仕事に就かずに安全確保に関する専門的知識を持っている人物は稀である。結果的に規制委員会設立時から委員の人選は難航し、当時の野田佳彦首相(民主党)は両院同意人事を省略して委員を任命する例外規定を用いる異例のスタートとなった。

 その後、この例外規定は適用されていないが、それは民主党から自公政権に交代して衆参議院とも与党議員が圧倒的多数になった結果、同意人事に波風が立ちにくくなったからであり、規定に照らして一点の曇りなき人物が任命されてきたわけではない。与党圧倒的多数の国会議席状況において「両院同意人事」が恣意的に運用される事例はNHK経営委員の選任など、安倍晋三政権となってしばし見受けられるものである。

 事務局となる原子力規制庁も原発推進を担ってきた経産省や文部科学省からの独立を求めて環境省の外局として設けられ、一度、規制庁に配属された官僚は元の省庁に戻れない”ノーリターンルール”が採用された。

 しかし、環境省も温暖化対策において原発増設に期待してきた歴史があるし、”ノーリターンルール”についても一度別の省庁を経由すれば出身官庁に戻れる抜け道があり、実質的な効力は疑わしい。こうして多くの懸念を含む規制行政の中で、次々に再稼働が認められていることが反原発運動の反発を一層強める結果になっている。

安全基準と被曝忌避が共に強まる

 しかし、2013年6月19日に規制委員会が定めたいわゆる「新安全基準」では、多重防護によって守られている原発でシビアアクシデントは起こらないという想定のもとで限定的な安全対策をしていたそれまでの姿勢を改め、シビアアクシデント対応が盛り込まれた。

 たとえば

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