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移籍金制度導入は「最後のワルあがき」か(上)

公正取引委員会に契約慣行に切り込まれた芸能界は移籍を認める代わりに金銭補償を検討

小野登志郎 ノンフィクションライター

能年玲奈から芸名を変えたのん=2017年5月25日、東京都葛飾区能年玲奈から芸名を変えたのん=2017年5月25日、東京都葛飾区
  一昨年より立て続けに(というよりJYJ問題など、だいぶ前からずっとのことだが)、SMAP、のん(能年玲奈)、清水富美加の移籍問題等で、芸能人と芸能事務所との衝突が度々報じられている。それもあってか、昨年、公正取引委員会が芸能界の社会構造にメスを入れると発表していたが、2月15日、公正取引委員会の有識者会議の報告書において、芸能事務所で確認された移籍制限などに関し、「独禁法上問題となる場合がある」と明記した(https://www.jiji.com/jc/article?k=2018021501167&g=soc)。

  これで、日本の芸能界の古臭い慣行に対し、法律という国家の介入がほぼ決定的となった。芸能事務所側は契約書の大幅な見直しを迫られるだろう。そして、契約書の存在で頭を押さえつけられたと感じている芸能人たちの中には安堵した者も少なくないだろう。
どだい古すぎたのだ。芸能界の慣行、慣習というものが。公正取引委員会は、それに対し当たり前のことをしたに過ぎない。

 「芸能人は自己そのものを『商品』として提供している。それぞれの磨いた『芸』を売っているのだ」と言われる方もいるが、同じ『芸』を別の人物が提供したとしても、消費者=視聴者は同一の『商品』とは見做さない。

 また、一部の芸能人は個人で事務所を構えて活動しているが、大多数は芸能事務所と契約を交わしてタレント活動をおこなっている。このとき、タレントと芸能事務所の関係が、売り込み、つまりは仕事の斡旋だけであれば事は単純だが、実際はレッスンやスケジュール管理等のマネージメント業務、一定額の給与の支払いなど多岐にわたっている。それだけの先行投資を芸能事務所はおこなっている。

 もちろん通常の企業の新入社員も企業側で研修や指導もおこなっているが、社員は退職の自由を保障されている。だが勤めている間に知り得た機密や、会社の利益元である『商品』の持ち出しは契約上で認められていない。

 つまり育て上げたタレントが辞めてしまうと、芸能事務所という企業は従業員だけでなく『商品』を失ってしまう。移籍であれば、さらに他社が『商品』を盗み出したようなもので企業としては到底看過できるものではないのかもしれない。

 過去にそのことを主張し、芸能事務所の言い分が認められた裁判所の判決がある。

  2006年、東京地裁において

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