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「探偵!ナイトスクープ」の三つの発明[7]

依頼者と芸人、制作者が楽しみつつ解決、ナレーションはなし、テロップでわかりやすく

川本裕司 朝日新聞記者

「探偵!ナイトスクープ」の探偵局長の西田敏行(中央)と探偵の芸人たち=2018年1月 (C)朝日放送テレビ「探偵!ナイトスクープ」の探偵局長の西田敏行(中央)と探偵の芸人たち=2018年1月 (C)朝日放送テレビ
 関東でフジテレビが若者から深夜番組で支持を得たころ、関西では幅広い世代から人気を集める深夜のバラエティー番組が誕生していた。朝日放送が1988年3月に始めた「探偵!ナイトスクープ」(金曜夜11時17分からの55分番組)は放送から30年を超え、いまも高い視聴率を誇る。

 プロデューサーとなる松本修(68)は副社長から指名されて若者向けの番組開発を命じられ、ディレクターと打ち合わせを重ねていた。視聴者からの依頼に基づいて街で調べ回って報告する、というアイデアをひらめいた。ディレクターが「調べるのは探偵の仕事ですけどねぇ」とぼそっと言ったとき、シャーロック・ホームズの姿が思い浮かび、企画の全体像と書斎兼応接間のセットが一気に導き出された。

 「85年秋に阪神タイガースが優勝した夜に道頓堀に沈んだカーネル・サンダース像を救え」から「青バナ小僧はどこへ行った?」「ポン菓子はどこへ」「ネギを食べたらリカちゃん人形の味がするのはなぜか」まで、想像を超えた幅広い依頼に取り組んだ。幼稚園時代の同級生だった美人の女の子を捜してほしいという19歳の学生が申し込んできた「子供美人はどこに」は、依頼者の強い思い入れが引きつけた。

「おならは燃えるの?」という視聴者の疑問に答える

 「おならは燃えるの?」では、探偵役の北野誠と男性依頼者が自分たちで燃やそうとしたが失敗。同情した大阪の主婦やOLら十数人のアイデアを得た結果、お尻の近くにライターを持っていき、おならを連発したところ火が点いた。みんなが抱き合って喜ぶ場面が放送された。

 他方、楽器を何ひとつ弾けなかった少女が淀川の河川敷などで1日14時間の猛練習した末にステージで披露する「ウクレレ少女」、大阪から祖母のいる愛媛まで中学2年の女子が一人旅する「素晴らしき車椅子の旅」といったヒューマンな作品もある。

 視聴者から届く依頼の応募数は毎週400~500通。これまでに調査した案件は5000件を超えるという。依頼を解決するため、探偵役のお笑い芸人が調査するため訪れる依頼人や関係者とのやり取りが、爆笑を誘う。飾り気なくボケたり突っ込んだりと、芸人に負けない面白さを誇る関西人の話術が魅力となっている視聴者参加番組でもある。

 当初、社会のナゾを解き明かすドキュメンタリーふうの番組をめざしていた。ところが、依頼に映し出される個人的な思い入れの面白さに松本は気づき、依頼者を積極的に登場させるようにした。「素人」のバカバカしいほどの真剣さが笑いを誘うことを発見したのだった。

作り手がバカになり笑いの素材に取り組む

 番組づくりで一貫させているのは、依頼者をオモチャにして笑いをとらないことだ。依頼者と探偵、ディレクターが一緒に楽しみながら、予定調和でない解決をめざしていく。バカを笑いながら、ときに感動が混じるのは30年間変わっていない。

 作り手が上から見下ろすのではなく、自分から下りていってバカになっていった。「そこまでしなくていいから」と言われるほどの誠意を尽くし、あふれる愛情で笑いの素材に取り組んだ。松本は「『ナイトスクープ』はテレビ史上の革命だったかもしれない」と自負している。

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