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大坂なおみというチャンピオン像がもたらすもの

全豪オープンテニス制覇は全米後の敗退の教訓と、家族からの自立が生きた

倉沢鉄也 日鉄総研研究主幹

 大坂なおみ選手が全豪オープンテニス女子シングルスを優勝し、日本人史上初の世界ランキング1位となった(2019年1月28日付)。個々のエピソードや大坂のコメント、その評論について、スポーツ報道の記事はすでに豊富に掲出されており、本稿で特段述べる必要もないだろう。

全豪オープン優勝の翌日、海辺での記念撮影に臨んだ大坂なおみ=2019年1月27日、豪メルボルン
 今回の優勝については、技術的には従前来のパワーヒットのみならずタイミングとコントロールを活かしたショットを短期で武器にしてきたこと、体力的にはオフシーズンの厳しいトレーニングの成果としてこのタイミングのよいショットを的確に繰り出せるポジションを早くとれるようになったこと、精神的にはバインコーチのさらなるメンタルトレーニングもさることながら、全米オープン優勝後の4カ月間で味わった数々の敗戦から大坂自身が学んだ教訓を実戦で使用できる状態にしていたこと、と総括しておく。そして世界ランキングはこれから浮き沈みもあろうが、大きな怪我のない限り今後5~7年は常に1位の有力候補に挙がる、テニス界のチャンピオンの1人であり続けるだろう。

 本稿では、大坂が体現する日本人の新しいチャンピオン像について採り上げる。

 それはプロ競技選手としての、二つの社会的責任を果たす姿を体現しており、それは現代の日本、とくに人材育成に必要なコンテンツと思われるからだ。

 一つは、家族から自立している大坂の姿である。多くのスポーツ競技の選手が世界トップに至ってもなお、家族とくに母親の帯同が続き、試合中でも観客席の親の姿から目を離せず視線で助けを乞う姿はプロテニスのトップ選手でも男女問わず多くみられる。トップ選手であれば自身の賞金を元手に家族を帯同させることも可能だが、選手が家族のための時間を確保することと、選手が家族を同行させることと、選手に家族が帯同してくること、はすべて異なる。

 そうした姿はアマチュアの時代から始まっていて、たいていは親が自らの出費で帯同し続ける。未成年の保護者の立場として当然という言い方もある。ならば国内外の個人ジュニア競技のトーナメントツアーが帯同する親の経済的犠牲で成立していること自体、根本的に改められるべきだがここでは触れない。少なくとも30歳近くなった世界のトップ選手が観客席の家族とともにナーバスになる姿は、後進の若い選手への影響としてよいものではなく、その責任も負って競技の場にあり、報道されていることを自覚する必要がある。

 例えば先般のオリンピックで、とある世界トップクラスの日本人選手が負けて、観客席の家族に出向き「(これでは亡き)お父さんに怒られる!」と泣き叫んでいる姿が映像に流された。これでは社会人としてダメだということを言っている。

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