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学力テスト結果を校長の異動に反映させる「評価」

福祉の現場などでも効率化を優先化させる傾向が何をもたらすか

樫村愛子 愛知大学教授(社会学)

全国学力調査の問題が配られ、説明を聞く小学校の児童ら=2018年4月17日、大阪府枚方市
 全国学力テストの結果が政令指定市で最下位だった大阪市が、大阪市や大阪府で行う学力テストの結果を小、中学校の校長の人事評価に反映させるとして批判が起きている。学力テストは、序列化や地域間競争を促し、学力テストを目標とした倒錯した教育を生み出すのではないかとする批判はこれまでもあった。

 一昨年末、福井県議会は「『学力日本一』を維持することが本県全域において教育現場に無言のプレッシャーを与え、教員、生徒双方のストレスの要因になっている」として教育行政の抜本的な見直しを求める意見書を可決している。中学二年の男子生徒が学校で飛び降りたことが契機となったとされる(https://www.chunichi.co.jp/article/column/editorial/CK2019021902000110.html)。
学力テスト導入とそれへの批判は何度も再燃してきた。

 また教育にとどまらず、昨今、企業だけでなく公的部門においても業務の効率化・パフォーマンス・アカウンタビリティ等が求められこれらを進める制度が導入される中、来たるべき「評価社会」の進行とそれに対する批判もなされつつある。

 しかし、批判をものともしないように、むしろ社会の根本的な構造として評価の枠組みは強化されつつある。

 例えば、最近のトピックとしては、「休眠預金」をめぐる社会的活動の評価がある。10年以上引き出しが行われない、700億円にものぼる「休眠預金」を民間団体が活用できる「休眠預金等活用法」(2018年施行)は、休眠預金を子どもや若者、社会的弱者の支援を行う民間活動に充てられることになったが、実際の現場で有効に生かすことができるのかが課題となっている。国が定める「指定活用団体」に多くの裁量や権限が集中し、また助成を受けるにあたり、「社会的インパクト評価」や「成果の可視化」が条件となっているからである。

 内閣府が18年3月に発表した「休眠預金等交付金に係る資金の活用に関する基本方針」では、「国民への還元」「公正性」などとともに「革新性」や「成果」をあげることも強調されている(「イノベーション志向」のような価値評価がコンセンサスもないまま恣意的に忍び込んでいることがわかる)。NPOが行う活動は、長期的にじわじわと地域に変化をもたらすものや、数値での成果を表しにくいもの(もしくは数値での計測手法が確立されていないもの)もある。

 貧困ビジネスを排除したり、税金の適正な使用をチェックしたりするためには、評価は必要ではあるが、一方でせっかく現場で実効性のある活動が、浅薄な(とりわけ安易な数量化による)評価指標で排除される危険性がある。

 とりわけ福祉の現場では、例えばもともと抱えている問題も軽く就労しやすいクライアントは、就労結果にすぐに結びつき、支援団体の成果となりやすいのに対し、重い困難を抱えている人たち(貧困のみならずその背景として虐待や依存、ひきこもり等々があるケース)は簡単に結果に結びつかず、経営を重視すれば、こういった人たちは援助からはずされていきやすい。良心的で本当に彼らを援助したいと思う団体は、団体の経営を無視しても彼らを援助しようとするだろう。

 一定の過程の中で、その重い困難を抱えた人たちも、ある日大きな成長や変化を示すことがある。その成果の大きさこそが評価されるべきで、このような人間の線形ではない複雑で劇的な変化の過程を、経済的効率性をベースとする数値では評価できるだろうか(貧困地域の学校内カフェなどを立ち上げてきた田中俊英らが根本的な問題として批判している)。

 経営学者の川原尚子は、「社会的インパクト評価」は事業や介入の効率性の観点を重視し、社会影響の受益者のニーズの観点を置き去りにするリスクがあると指摘している。社会影響の測定フレームワークは、実際には測定結果を投資の効率性を図り意思決定のための情報として利用する側の必要性に沿って決められがちとなる。本来の社会的便益の受益者側のニーズに沿った社会影響の測定や報告がなされるべきではないかと述べている(川原尚子、2018「社会影響の測定と報告のフレームワークの現状と課題」)。

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