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元祖4回転王が語る羽生結弦、チェン…選手の未来

スケートから全く離れて第二の人生を歩む元トップスターたち

田村明子 ノンフィクションライター、翻訳家

世界選手権男子シングル表彰式 銅メダルを獲得した本田武史(右)。中央は優勝したアレクセイ・ヤグディン(ロシア)、左は銀のティモシー・ゲーブル(米)2002年、長野で開かれた世界選手権で銀メダルを獲得したティモシー・ゲイブル(左)。銅の本田武史(右)、優勝したアレクセイ・ヤグディン(ロシア)とともに

 先日ニューヨークのマンハッタンで開催されたチャリティイベントの会場で、久しぶりにティモシー・ゲイブルに会う機会に恵まれた。

 ゲイブルは1998年に公式戦で史上初の4サルコウをジュニアGP(グランプリ)ファイナルで成功させ、また1999年にはフリーで3度の4回転を成功させるという新記録を作った元祖4回転王である。2002年ソルトレイクシティオリンピックで銅メダルを手にし、2006年の全米選手権を最後に引退するまで4回転を76回成功させたという。

 だが現在のゲイブルは、フィギュアスケートと全く関係のない仕事に就いている。

 競技から引退した半年後の2006年秋に、ゲイブルはニューヨークのコロンビア大学に入学。2010年に数学の学位を取得し、さらに2016年にはニューヨーク大学院ビジネススクールに入学し、修士学位を手にしたのである。

 現在の彼はグーグルでデータアナリストをしている。4回転王から、大手IT業界の管理職へ転身をはかった。

選手は引退後どうするのか

ティモシー・ゲイブル引退後は数学を学び、IT業界に転身したティモシー・ゲイブル=撮影・筆者
 「コロンビア大学に通っていた頃は、パートタイムでコーチもしていました。そのときに、コーチになるにしても、やはりある程度の教育は受けないと駄目だなと痛感したんです。スケート以外のことを全く知らないのでは、やはり物事に対して多面的な理解力を持つことは難しいと思う。また誰もがコーチに向いているわけではない。だからトップアスリートでも、教育は大切だと思います」

 ゲイブルは、そう語った。彼の言うように、スケーターが競技から引退した後で第二の人生をどうするかは切実な問題である。平均20代半ばで引退する彼らにとって、残りの人生のほうが圧倒的に長いのだ。

 アイスショーで華やかに活躍し、その後スポーツキャスターなどになれるのは一部のトップ選手のみ。それも全員が成功するわけではない。

 アイスリンクの数が豊富なアメリカでは、かつての五輪メダリスト、世界選手権メダリストなどスターだった選手が、片田舎のリンクで地元の子供たちや年配のアダルトスケーターなどを相手に地味にコーチ活動をしているという状況は珍しくない。

 その一方で、ゲイブルのようにスケートから全く離れて第二の人生を歩んでいる元トップ選手も少なくないのだ。

華やかな転身をした元スター選手たち

 2002年ソルトレイクシティオリンピック女子金メダリストのサラ・ヒューズは、2009年にイェール大学を卒業し、さらに2018年にペンシルバニア大学のロースクールで学位を修得したところだという。

アイスショーで演技するサラ・ヒューズ選手2005年のアイスショーで演技するサラ・ヒューズ。その後、名門のイェール大学を卒業し、ロースクールへ

 2006年トリノオリンピック女子銀メダリストのサーシャ・コーエンは、2016年にコロンビア大学を卒業して、現在はニューヨークの投資銀行に勤務している。

 2010年バンクーバーオリンピックの金メダリスト、エヴァン・ライサチェックは、

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