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本人・家族の死生観の変化か?「胃ろう」が半減

口から食べる量が減り、自然なかたちで終末を迎える方が増えている

久富護 訪問診療医 医師兼コンサルタント

Photographee.eu/shutterstock.com

 2019年9月に総務省より日本の高齢化率(65歳以上人口割合)が28.4%との発表があった。高齢化率は上昇を続けており、このことは今後、さらなる多死社会の到来を意味していると考えられる。

 人は亡くなるまでに、様々な経緯・症状をたどるが、その一つに経口摂取量(口からの食事量)の低下がある。人は年を重ねることにより、飲み込む力が落ち、口から食べ物を食することが困難になる。その際に栄養を摂(と)るための手段として、医療的な処置が発生する場合と発生しない場合がある。

栄養を摂るための幾つかのやり方

 医療的処置が発生する場合の代表的な選択肢としては、「胃ろう」等を造設し、そこから栄養剤を注入する経腸栄養療法と、多くの栄養が含まれている高カロリー輸液を点滴することによる中心静脈栄養法がある(心臓に近い血管から点滴する必要があるため、基本的に首の近くの血管から点滴を実施)。

 一方、医療的処置が発生しない場合としては、経口摂取ができなくなったことを基本的に自然の流れとして受け止め、ごく少量だとしても食べることのできる量の食物を召し上がっていただくという方法がある。

 それぞれのやり方には長所と短所があるが、いずれにせよ、ご本人やご家族の意向に沿うかたちで、医療従事者とともにアプローチを決定することとなる。

心的な負担を抱えずに医療行為を選択するために

 胃ろう等は、経口摂取が困難になった方にとって有効な栄養摂取手段である一方で、人生の最終段階を迎えた高齢の方々をめぐり、ご本人の意向に伴わない胃ろうの造設が存在するのも事実である。

 具体的には、ご本人自身の意思が伝えられる段階では胃ろうの造設を拒否していたが、認知症などで意思が伝えられなくなった後に、ご家族が胃ろうを選択した場合がそれにあたる。そこには病態の変化やご家族としての思いなど、様々な要因が介在していることが多い。ただ、その場合、ご本人の意向と違う選択をしたことについて、ご家族が長い期間悩まれる姿を何度もみてきた。

 また、事前にご本人の意思が確認できていない場合は、家族として単純に栄養を摂って欲しいという思いから、あるいは「何もしないことに対しての罪の意識」から、胃ろうを造設するケースもある。

 私としては胃ろうを選択することが「正しい/間違っている」と述べるつもりはまったくない。とはいえ、できれば心的な負担を抱えることなく、「これが本人のために最良の選択肢であった」という思いのなかで、選択をしてほしいと考えている。

 胃ろうにとどまらず、何かしらの医療的な行為をご家族が選択する際、ご本人の明確な意思があれば、心的負担は圧倒的に少なくなる。そのため、できればご本人が自身の意思を伝えられるうちに、家族内でしっかりと話し合うことが非常に重要と考えられる(結論が出なくても、話し合うことが重要)。そして、もしそこで結論が出たのであるならば、家族内でその内容を共有することが望ましい。

胃ろう決定までの流れ

 近年、経口摂取ができなくなった際の医療処置の選択について、流れが変わってきているように見える。私は訪問診療医として約6年、それ以前も市中病院で高齢者を対象に診療してきたが、胃ろうによる経腸栄養法や中心静脈栄養法を選択される方が、ご本人の意思・ご家族の意思にかかわらず、非常に少なくなっているのである。

 ここで胃ろう等の選択までの流れを、私自身の経験をもとに説明しておこう。

 訪問診療医として私は、初診時もしくは加齢によりご本人の食事量が減ってきた際に、胃ろう造設等の選択について、ご家族と面談することが通常となっている(本人同席で面談を実施することもある)。ご本人の意向の確認(胃ろう造設等の希望有無の確認)、意向が確認できない場合は、ご家族の思いの確認した後、医療介護チームとともに、どういう選択をするか決定する。もちろん、この決定は絶対ではなく、変更も可能だが、医療的な方針はここで決められた内容をもとにたてる。

 この治療方針を決定する面談の際、胃ろうを選択するご本人やご家族が非常に少なくなってきていると感じているのである。

胃ろう造設が半減

 今回、その実数を調査するために、厚生労働省の公開データ「社会医療診療行為別統計」などを用い、日本における75歳以上人口あたり胃ろう造設数(胃ろう造設術件数)および中心静脈栄養法件数(中心静脈注射用植込型カテーテル設置件数)を調査した。

 2011年から2018年までを調査したが(中心静脈栄養法については2013年から2018年を調査)、結果としては、75歳以上千人あたりの胃ろう造設件数は、2011年の約6.3件/年から徐々に低下し、2016年には2.7件/年まで低下していた。その後、微増し、2018年に約3.1件/年となっていた(なお、実数ベースでは、2011年9万2232件/年、2018年5万5740件/年)。

 一方、経口摂取が困難になった際の点滴を用いた栄養法の一つである中心静脈栄養法件数は、2013年の約2.0件/年から2018年約1.9件/年とおおよそ横ばいの推移をたどっていた。つまり、「75歳以上の高齢者における胃ろうは半分に減少、中心静脈栄養は微増から横ばいで推移」ということになる。

 これを数字で見ると、75歳以上の千人あたりの「胃ろう造設数+中心静脈栄養法」は、平成23年度の8.3年/年から平成30年度5.0件/年と減少していた(2011年における中心静脈栄養法件数を2.0件/年で計算)。つまり「経口摂取が困難になっても、医療処置的アプローチをとらずに、食べられる量は少なくなっても経口摂取のままで、死を迎える方が増えてきている」実態が浮かび上がる。

 胃ろうを造設せずに鼻からチューブを入れ、栄養剤を流す経鼻経腸栄養を実施している方もいるため、一概に経口摂取のままで死を迎える方が増えてきていると言いきれない部分もあるが、その数は胃ろうや中心静脈栄養と比較し、多くはないと考えている。

なぜ胃ろうは減ったのか?

 なぜ、胃ろうの造設は半減したのか?

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