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[36]「無事に年が越せる」安心をすべての人に

「年越し大人食堂」開催へ

稲葉剛 立教大学大学院21世紀社会デザイン研究科客員教授

東池袋中央公園で行われた炊き出し=2014年12月27日、東京都豊島区、北村玲奈撮影

 「ふだんは派遣の仕事をしながらネットカフェで寝泊まりをしているが、年末年始の休みに入って収入がなくなり、路上生活になった。途方に暮れて、サンシャインシティの中をうろうろしていたら、窓越しに下の公園で炊き出しをやっているのが見えたので、おそるおそるのぞいてみました」

 「仕事がなくなる年末年始に備えて、1週間分のネットカフェ代を貯めてきたが、マクドナルドの店内でウトウトしている間に、スリに遭ってしまった。どうしたらいいのか、わからない」

 年末年始になると、このような相談が私たちホームレス支援団体のもとに寄せられるようになる。普段は仕事をしながら、ネットカフェ等に暮らしている人たちの中から、所持金が尽き、この時期だけ野宿をせざるをえない人が出てくるのだ。

 2017年に実施された東京都の調査では、都内のネットカフェ、漫画喫茶、カプセルホテル、サウナ、24時間営業の飲食店等に暮らしている人は約4000人と推計されている。そのうち約3000人が派遣、契約、パート・アルバイト等で働く非正規労働者で、働いている人の平均月収は約12万円である。東京で賃貸住宅を借りて、家賃を毎月払うのは難しい金額だ。

お金が尽き、年末年始に「人生初の野宿」を経験する人が続出

 私はこれまで多くの「ネットカフェ難民」の相談を受けてきた。その年齢層はさまざまだが、共通しているのは、日払いや週払いの仕事をしながら、働いて得た収入からネットカフェ等の「その日の宿代」を払うという自転車操業的な生活を余儀なくさせられている人が多いという点だった。

 そのため、仕事が数日間休みになる年末年始やゴールデンウィークの時期には、お金が尽きてネットカフェにも泊まれなくなり、「人生初の野宿」を経験せざるをえない人が続出する。

 特に寒さが厳しくなる年末年始に屋外で寝ることは体力的に厳しいものがある。また、年末には帰省をして家族と正月を過ごすという慣習がある日本社会において、一人きりで路上で年を越さなければならないことがもたらす絶望感は想像に難くない。

 こうした事態を避けるため、年末年始を乗り切るためのお金を貯めている人もいるが、節約のため、ネットカフェではなく、ファストフード店で夜を過ごしていたところ、窃盗被害に遭ったという人にも会ったことがある。

公的支援は事実上、機能を停止

 生活困窮者にとって最後の頼みの綱である公的な支援は、この時期、事実上、機能を停止する。役所が閉庁している期間であったとしても、各自治体の夜間・休日窓口で生活保護の申請書を提出したり、ファクスで申請書を送付したりすることは可能だが、各自治体が独自の対策を行わない限り、期間中に宿泊の支援や一時的な生活費の貸し付けを受けることはできない。

 東京では民間によって「年越し派遣村」が行われた一年後にあたる2009年の年末から翌2010年の年始にかけて、都が国立オリンピック記念青少年総合センターの宿泊棟を借り上げて、生活困窮者への宿泊支援を実施したことがあるが、それ以降は年末年始の特別な公的支援は実施されていない。

 ホームレス支援団体の中には、この時期、各地の公園で連日の炊き出しや医療・福祉相談等、集中的な支援活動を実施しているところが多い。私の経験では、12月30日、31日と年越しが近づくにつれて、普段の炊き出しの場では見かけない顔が増えてくるという印象がある。ネットカフェ等から押し出されるように路上に出てくる人が増えていくのだ。

 だが、冒頭で紹介した発言に「おそるおそるのぞいてみました」という言葉があったように、「人生初の野宿」という事態に直面した人がホームレス支援団体に助けを求めるには、心理的なハードルを越える必要があるだろう。

仙台で始まった「大人食堂」の取り組み

 ネットカフェ等に暮らすワーキングプアの人たちが、野宿に至る前の段階で気軽に立ち寄れる場を作れないか。そんなことを私は自分が代表を務める「つくろい東京ファンド」のスタッフと共に考えるようになった。

 そんな中、今年のゴールデンウィークから仙台で「大人食堂」という取り組みが始まったのを知った。

 「大人食堂」は、若者の労働問題に取り組むNPO法人POSSEの仙台支部と仙台けやきユニオンが中心となった取り組みである。18歳~65歳の労働者や失業者、その家族を対象に無料で食事を提供するとともに、弁護士や労働組合相談員による労働・生活・住居の無料相談会や、仕事や生活の悩みなどを気軽に話せる談話会も同時に開催している。

 2019年5月の初回開催から、すでに8回開催され、12月27日には第9回が予定されている。

 「大人食堂」というネーミングは、全国に広がる「こども食堂」を意識したものだろう。子どもが気軽に行くことのできる「こども食堂」の取り組みが今の日本社会に必要であったのと同様に、大人にも居場所と支援は必要である。

東京でも「年越し大人食堂」を開催

 そこで、仙台の取り組みに見習って、東京でも年末年始に「年越し大人食堂」を開催することにした。

 今冬の年末年始は9連休になる予定である。安定した住まいを失っていなくても、「無事に年を越せるのか」と不安に思っている人は少なくないだろう。「年越し大人食堂」は、そうした大人たちに開かれた場にしていきたい。

 「年越し大人食堂」は、NPO法人POSSEと「つくろい東京ファンド」が中心になり準備を進めている。食材はパルシステム連合会、調理は料理研究家の枝元なほみさんが、それぞれ全面的に支援してくれることになっている。

 宿泊の支援が必要な人には、今春に設立した「東京アンブレラ基金」から1人あたり1泊3000円の宿泊費を支援する。同基金による緊急宿泊支援は通常4泊までだが、この年末年始に限り、9泊まで延長を可能にする。

 「年越し大人食堂」だけでなく、年末年始の期間も孤立する人々を支援する民間団体は少なくない。「東京アンブレラ基金」では、「誰も置き去りにしない年末年始を!」を合言葉に各団体の活動をバックアップする寄付キャンペーンを始めている。

 ぜひ多くの方々のご支援をお願いしたい。

誰も置き去りにしない年末年始を!アンブレラ基金年越しプロジェクト2020にご協力を!|東京アンブレラ基金

※「年越し大人食堂」等、東京都内の各団体の年末年始(2019年12月28日〜2020年1月5日)相談支援スケジュール

■「年越し大人食堂」(つくろい東京ファンド・POSSE)

開催日①:12月31日(火)12時半〜19時半・会場[東京都新宿区四谷4-29-12 御苑ビルB1 THE SPACE]
開催日②:1月4日(土) 12時〜20時頃・会場[東京都新宿区大久保2丁目2-6 パルシステム連合会ビル 2F 多目的ルーム]
できること:働きながらも社会的に孤立していたり困窮状態にある方々へ、無料の食堂開催と無料の労働・生活相談

■NPO法人POSSE
実施日程:12月28日(土)〜1月5日(日)
電話受付時間:13時〜17時
電話番号:03-6699-9359
できること:労働・生活相談

■一般社団法人Colabo
できること:十代の女の子を対象としたバスカフェ&緊急相談
実施日程①:12月25日(水) 18:00~22:00 [新宿]東京都新宿区歌舞伎町1丁目4 新宿区役所 本庁舎
実施日程②:1月2日(木)11:00~17:00頃 [渋谷]東京都渋谷区神宮前6丁目21 神宮前6丁目22−8 渋谷神宮通公園
※中止・変更の可能性があります。最新情報はTwitterを確認ください。

■NPO法人TENOHASI

開催日:12月30日(月) 1月1日(水) 1月3日(金) 1月5日(日)
時間:医療・生活福祉相談 17:00~18:30 配食 18:00~
場所:東池袋中央公園

■NPO法人 豊島子どもWAKUWAKUネットワーク
実施日程:12月28日(土)〜1月5日(日)
電話受付時間:11時〜18時
電話番号:090-3519-3745
できること:豊島区近辺の子どもや親についての相談対応や、緊急宿泊支援

■NPO法人 ピッコラーレ
実施日程:年中無休
電話受付時間:16:00~24:00(受付は23:00まで)
電話番号:03-4285-9870
 メール(フォーム)での相談:24時間受付
できること:妊娠葛藤相談。にんしんにまつわる全ての「困った」「どうしよう」への対応。

■府中緊急派遣村
実施日程:12月28日(土)〜1月5日(日)
電話受付時間:11時〜18時
電話番号:090−3085−7557(松野)
メール:t.matsu.194927@gmail.com
できること:府中市近郊で、生活や食べるものに困った方への緊急ご相談と対応。