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【30】日本社会は地震に強くなったか?

阪神・淡路大震災から四半世紀の教訓

福和伸夫 名古屋大学減災連携研究センター教授

 今年1月17日で、阪神・淡路大震災から25年を迎える。1995年、三連休の翌朝の火曜日午前5時46分に、明石海峡の地下を震源とする気象庁マグニチュード(Mj)7.3の兵庫県南部地震が発生した。1948年福井地震で新設された震度7が初めて適用された。犠牲者は、死者6,434人、行方不明者3人に上る。死者のうち6,402人は兵庫県で発生した。負傷者は重傷10,683人、軽傷33,109人に及ぶ。

 阪神・淡路大震災以降、震度7の地震が6つあったが、これほど多くの家屋が揺れで倒壊した地震は他にはない。地震の翌朝、見渡す限り家が倒壊している現場に立ち、建築に関わる人間の一人として声を失った。本稿では、震災後25年が経ち、震災の教訓をどれだけ活かすことができたのか考えてみる。

倒壊した自宅前に座り込む住民=1995年1月18日、神戸市東灘区

建築物の耐震化

 未明の地震だったため、直接死約5,500人の8~9割の死因は住家の倒壊だった。住家被害は、全壊104,906棟、半壊144,274棟、一部破損390,506棟、計639,686棟であり、非住家被害は公共建物が1,579棟、その他40,917棟だった。地震の最大の教訓は家屋の耐震化である。神戸市役所2号館や神戸市西市民病院などの災害拠点が倒壊したことから、公共建築物の耐震化も大きな課題となった。

 被害の中心は、古い木造家屋や10階建程度の中高層ビルの中間階の崩落、マンションの1階ピロティの崩落などだった。いずれも、現行の耐震基準を満たさない既存不適格建物の被害である。このため、1995年10月に、「建築物の耐震改修の促進に関する法律」が制定され、耐震診断や耐震補強が進められることになった。

 また、地震直後に建物の安全性や被害程度を判断するため、被災建築物の応急危険度判定や、罹災証明のための住家の被害認定調査の体制が整備された。耐震基準も2000年に改訂され、性能規定型の耐震基準が導入された。これに加え、構造物の耐震性の把握のため、2000年に実物大の構造物を破壊できる実大三次元震動破壊実験施設・E-ディフェンスも整備された。

 この25年間で公共建築物の耐震化は確実に進捗し、2018年年度末時点で、地方公共団体が所有又は管理する防災拠点となる公共施設等190,642棟のうち、93.1%の177,514 棟で耐震性が確保された。一方で、住宅の耐震化は道半ばであり、近年の地震でも多くの家屋被害を出している。耐震強度偽装事件や、データ不正事件なども発生しており、建築物の耐震化やブロック塀の倒壊防止、家具固定などの住の安全確保は相変わらず重要課題として残っている。

救出と救命・救急

 地震で倒壊した家屋の人命救助は時間が勝負である。阪神・淡路大震災で倒壊家屋から生き延びた人の多くは、自力で脱出するか、家族や近隣の人に救出された人で、消防隊や自衛隊によって救われた人は少なかった。

 また、消防力や消防水利の不足から、長田区を中心に延焼火災を招くことになった。さらに、医療機関が被災し、生き延びた命を救えない事態も生じた。一方で、災害後の救援活動に自衛隊が大きく貢献し、多くの国民が災害時の自衛隊の役割を実感することになった。

 震災後、消火・救出活動強化のために、緊急消防援助隊の設置、ホースなど消防用資機材の統一規格化、自衛隊への派遣要請に関する市町村の権限強化などが行われた。災害医療についても、広域災害救急医療情報システム(EMIS)、災害拠点病院、災害発生時の緊急医療チーム(DMAT)などの整備が図られた。これらは、その後の災害でも大きな貢献をしている。

ライフラインの強化

 強い揺れによりライフラインが長期間途絶し、ピーク時には、水道の断水約130万戸、ガス供給停止約86万戸、停電約260万戸に上った。電気は早期に復旧したが、地中に埋設された上下水道とガスの復旧には数カ月を要した。

 家屋倒壊による道路閉塞に加え、高架の道路や鉄道の被害も甚大だったため、交通機関も長期間にわたってマヒした。神戸市東灘区深江地区で阪神高速道路が635mにわたり倒壊したことは衝撃的だった。東西を結ぶ交通途絶で全国各地の工場も製造停止した。万一、地震発生時間が2時間遅かったら新幹線も含め多くの列車が走行中であり、福知山線事故のような惨状が多数発生していた。

橋脚が折れるなどして横倒しになった阪神高速道路の撤去作業=1995年1月19日、神戸市東灘区

 震災後、埋設配管の耐震化や、道路や鉄道の高架橋脚の耐震補強など、ライフラインの耐震対策が精力的に行われた。とくに、都市ガスでは、ガス供給のブロック化により供給停止エリアを最小化する方策がとられた。2018年大阪府北部の地震ではこの対策が活きて、大阪ガスの供給停止は5%程度にとどまった。一方、2018年北海道胆振東部地震では北海道でブラックアウトにより全道停電し、平成31年台風15号では千葉県で強風により長期間にわたる停電や通信途絶が起き、新たな課題も浮かび上がった。

被災者支援体制

 全国から100万人ものボランティアが被災地に駆けつけボランティア元年と言われた。震災で育ったボランティアは、その後の災害でも大活躍している。1998年には、市民の社会貢献活動を支援するための特定非営利活動促進法が制定され、多くの防災NPOが設立された。

 また、被災者が自立して生活することを支援するために、1998年に被災者生活再建支援法が制定された。この法律は、2000年鳥取県西部地震や2007年能登半島地震・新潟県中越地震を受けて、2004年と2007年に支援が拡充されている。

 避難所の生活環境改善のため、段ボール仕切りや段ボールベッドなども活用されるようになった。さらに、高齢者、障害者、乳幼児その他の特に配慮を要する人たち(要配慮者)が安心して避難できる福祉避難所の整備も進められてきた。2016年には、全国災害ボランティア支援団体ネットワーク(JVOAD)が設立され、多様な支援者の力を最大限に活かす体制も整えられた。

危険を避けた土地利用

 阪神・淡路大震災では、震災の帯で多くの家屋が倒壊した。平成の30年間に起きたMj7.3の地震は、兵庫県南部地震、2000年鳥取県西部地震、2016年熊本地震と3つある。地震による直接死者数は、兵庫県南部地震が約5,500人なのに対して、鳥取は0人、熊本は50人である。家屋の耐震化もあるが、それよりも

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