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年賀状終了は「中高年の対人エネルギー消耗状態」

年賀メッセージを続ける人は、魅力・品格のある人

倉沢鉄也 日鉄総研研究主幹

「年賀状を今回限りでやめます」

 「年賀状を今回限りやめます」という連絡が、この数年、筆者手元でも急激に増えた。それも年老いて書けないというのでなく、30代~50代の年齢でも「今年が最後」と書かれてくる。特段の理由も書かれていない。

 世はインターネットとくにSNSの時代となり、紙の郵送による年賀状の衰退は必然ではあろう。はがき100通買って6,300円は高い、喪中含めた宛名管理も面倒、裏面に一言書くのも面倒、という状況も、わからなくはない。しかし周辺に聞いて回ってみると、100通の郵便はがきが100通のメール着信や100通のSNS更新通知に移行したわけではなさそうだ。年始挨拶そのものをなくしてしまっているという推定で、ほぼ間違いない。

2020年用の年賀はがきの発行枚数は23.5億枚。ピークの2003年用では44.6億枚もあった。年賀状専用ポストに投函する人=2019年12月16日、高松市

 〝15歳~79歳での、国勢調査に即した日本の縮図〟と呼ぶべき精緻なアンケート調査結果によると、2019年1月現在のSNS利用率は以下のようになる(NTTドコモモバイル社会研究所編「ケータイ社会白書2019年度版」より)。若者だけのメディアという考えはもう一昔前の話で、LINEでも過半数、他のSNSでも2~3割、中高年世代でも使われている。

各年代は国勢調査ベースで均等割り付け。ケータイ非利用者も含む。 出典:NTTドコモモバイル社会研究所編「ケータイ社会白書2019年度版」

 70代を除けばケータイ普及率はほぼ100%に近いが、逆に言えばLINE以外のSNS利用は各世代の2~3割に過ぎず、年賀状が移行する先があるとすればメール・ショートメッセージと音声通話しかない。前述のとおり、100通のはがきがそれらに移行した形跡は、筆者の知人友人同僚などには一切見当たらない。

 「Facebookは中高年の同窓会を前提とした時節挨拶の交流拡大コミュニケーションだ」という物言いもときに聞くが、年賀状代替メディアとしてトラフィック数が特別増えたという分析や、筆者周辺の定性的な話を聞いてみても、まったく見られない。

正式な時候のあいさつを伝えるメディアは何か

 正式な時節挨拶をするメディアは何か。〝国勢調査に即した日本の縮図〟ベースでの2017年12月の調査では、「LINEで年賀挨拶を済ませる人」は30代でも36%、40代以上は2割以下だ(マクロミル調べ。出典:市場調査メディアホノテ 2017.12.19「年始の挨拶に関する調査」)。

年賀はがきを買うために売り出し初日には長蛇の列ができた=1974年11月5日、東京都千代田区の東京中央郵便局前
 30代以上にとってのLINEは基本的に家族・肉親を中心にごく親しい数人~十数人との、無料音声通話を含めた高頻度コミュニケーションツールに過ぎず、かつての年賀状の母集団を網羅する使い方をする人など皆無に等しい。

 そして何よりも、それらSNSやWeb(ブログ、メールなど)での情報発信はすべて、アプリ立ち上げ~文字や映像の入力~アップロードという点で紙媒体の年賀状をPC上で出力することと手間の違いはほとんど何もない。

 経済的に自立している30代以上にとって、年に一度5,000円からの郵送費が深刻であるはずがない。コストが理由で消えた市場はむしろ中元・歳暮のほうだろう。手間も今や年賀状宛先印刷ソフトが普及して久しく、一度データベースを作ってしまえば送信宛先を選定するメールやSNSの操作のほうが手間だ。裏面印刷画像もWeb上のサービスでいくらでも選べるし、郵送自体までやってしまう郵便局のサービスもすでにある。

 メールやSNSで年中無料でつながっているから時節の挨拶は必要ない、という説明は100%嘘だ。ならばその人たちは

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