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[37]年越し大人食堂に見る2020年の貧困

ワーキングプア型の貧困への対応策は?

稲葉剛 立教大学大学院21世紀社会デザイン研究科客員教授

 連載「貧困の現場から」が朝日新書になりました

 2020年、オリンピックイヤーが幕を開けた。

 だが、この年末年始、経済的な不安を抱えたまま、年を越した人は少なくない。そうした大人たちを支えるため、東京では初めての試みとして「年越し大人食堂」が開催された。

 「年越し大人食堂」は、2019年12月31日と2020年1月4日の2回、東京・新宿で開催された。「年越し大人食堂」開催に至る経緯や、この企画のコンセプトについては、先月書いた記事をご一読いただきたい。

[36]「無事に年が越せる」安心をすべての人に~「年越し大人食堂」開催へ(稲葉剛)

約80人が利用、29人に緊急宿泊費を提供

調理をする枝元なほみさん
 大みそかに開催された1回目の食堂では38人、年明け4日に開催された2回目には64人が来場した。2回とも来た人を除くと、実数で約80人が利用したことになる。

 2日とも、調理は料理研究家の枝元なほみさんが担当し、来場者に昼食と夕食が提供された。

 31日には、おこわおむすび、白菜と豚肉のスープ、黒豆、かぼちゃプリンなどがふるまわれ、4日は、鹿肉や猪肉を使ったカレー、お雑煮、かぼちゃプリンなどが提供された。食材の多くは、枝元さんの知り合いの農家や、協力団体のパルシステム連合会、有限会社生活アートクラブなどから無償提供され、寄付で集まったみかんやりんご等の果物やお菓子も提供された。

「年越し大人食堂」で出されたカレー
 希望者には、一般社団法人つくろい東京ファンドやNPO法人POSSEのスタッフによる生活や労働に関する相談もおこなった。2日間で相談を受けた人は計40人(重複を除く)。そのうち、「今晩から寝泊まりする場所がない」という状況にある29人に「東京アンブレラ基金」から1泊あたり3000円の緊急宿泊費が提供された。

 大みそかに緊急宿泊支援を受けた人の中には、普段は働きながらネットカフェに寝泊まりをしているものの、年末に仕事が切れたことにより、所持金が尽き、「今夜からのネットカフェ代が払えない」という若年の男性もいた。

 私は長年、路上生活者の支援を続けてきたが、毎年、年末年始になると炊き出しの現場で、彼のような状況の若者に出会うのが年中行事のようになっていた。今回の取り組みの一つの目的は、こうした人たちが路上生活になる前の段階で、支援の手を届けることであったので、一定の役割を果たすことができたのではないかと考えている。

来場者の半数が安定した住まいがない状態

 「年越し大人食堂」では、来場者全員に簡単なアンケートを実施した。そのアンケート結果をもとに、どのような人たちが来ていたのか、見てみたい。

 12月31日に来場してアンケートに回答した38人。これに、1月4日に来場してアンケートに答えた人(64人)のうち、「初参加」と回答した40人を加えると、2日間の来場者の実数は少なくとも78人いたことになる(4日に「初参加」か「2回目」か、回答しなかった人が5人いる)。

 この78人の内訳は以下の通りである。

 性別は、男性は61人(78.2%)、女性は17人(21.8%)であった。

 年齢は、20代5人(6.4%)、30代15人(19.2%)、40代18人(23.1%)、50代22人(28.2%)、60代17人(21.8%)、70代1人(1.3%)と多様であった。

 路上生活者支援の炊き出しに集まる人は、ほとんど全員が男性なので、それに比べると、女性の割合は多いと言える。また、年齢層も幅広いと言えよう。

 「年越し大人食堂」の情報を得たルートとしては、「ネット・SNS」が最も多く37人(47.4%)、次いで「新聞」が20人(25.6%)と続いた。前者は幅広い世代にわたっており、後者は50代以上が多かった。会場で見たところ、スマートフォンを持っている人も少なくなかったようである。生活困窮者支援の団体や家族・知人から情報を得たという人も11人ずつ(14.1%)いた。

 住まいの状況に関する質問にはさまざまな回答があったが、ネットカフェや路上、カプセルホテル、簡易宿泊所など、安定した住まいがない状態にあると見られる人が39人(50.0%)いた。民間の賃貸住宅に住んでいると答えた人は27人(34.6%)だった。

 月収についての質問には44人が回答した。その内訳は、0~5万円が15人(34.1%)、5~10万円が7人(15.9%)、10~15万円が11人(25.0%)、15~20万円が6人(13.6%)で、20万円以上は5人(11.4%)しかいなかった。

 仕事については、失業中という人が約半数を占めた。

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