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いじめ加害者の責任の重さ

大津いじめ事件の「その後」から考える

前田哲兵 弁護士

 2011年10月、滋賀県大津市の市立中学校の2年男子生徒が同級生からのいじめを苦に自らの命を絶った。2012年7月には、学校や教育委員会の隠蔽体質が明るみとなり、連日、テレビや新聞で報道されるようになった。

 一人の少年の死は、やがて、社会的な問題として注目されるようになり、2013年6月には、いじめ防止対策に関する基本法ともいえる「いじめ防止対策推進法」が成立するに至った。

 わが国のいじめ問題をめぐるターニングポイントとなったこの事件は、「大津いじめ事件」と呼ばれている。ただ、この事件の「その後」を知っている人は少ないのではないだろうか。

大津いじめ事件の「その後」

判決後の会見で涙をぬぐう自殺した男子生徒の父親(左)=2020年2月27日、大阪市

 この事件では、2012年、被害生徒の両親が、加害生徒らを相手取って訴訟を提起した。第1審の大津地裁は、2019年2月19日に、いじめと自殺との間の因果関係を認めて、加害生徒2名に対して約3750万円の支払いを命じた。

 その後、本年2月27日、控訴審である大阪高裁は、認容額こそ減額したものの、大津地裁と同様に、いじめと自殺との間の因果関係を認めて、加害生徒2名に対して約400万円の支払いを命じた。

 少年が自ら命を絶ってから既に8年以上の歳月が流れた。事件が13歳の時に起きたとしたら、加害生徒は既に21歳になっている頃だ。彼らは、青春を謳歌するはずの時期に、級友の死をめぐる裁判の被告として訴えられ、そして今、高額の損害賠償を支払うよう裁判所から命じられた。当然であるが、20歳前半の青年が400万円もの金銭を支払うことは容易でない。今後、彼らは、青年期の多くを被害者遺族に対する賠償のために費やすことになるだろう。

 私は、スクールローヤー(学校の法律問題を扱う弁護士)として活動する傍ら、都内の小中学校を訪れて、いじめ問題について生徒や保護者に対して講演活動を行なっている。講演では、生徒に対して、この賠償の問題を伝えるようにしている。「子供だから」で許される問題ではないということをわかってもらうためだ。

 いじめ問題は、被害生徒やその保護者の人生を狂わせるだけではない。加害生徒やその保護者の人生をも大きく狂わせてしまう。

加害者の法的責任 大人の場合

 一般に、大人が他人に迷惑をかけた場合に負う法的な責任には、刑事責任と民事責任の2つがある。刑事責任とは、国家との関係で、刑罰を受けるかという問題だ。対して、民事責任とは、被害者との関係で、損害賠償を支払うかという問題だ。

 例えば、大人が他人を殴って怪我をさせた場合には、刑事責任として、刑法上の傷害罪(刑法204条)に問われる。加えて、民事責任として、被害者に対して、治療費や慰謝料といった損害賠償を支払うことになる。

加害者の法的責任 少年の場合

 子供の場合は、大人の場合と少し違うが、パラレルに考えるとわかりやすい。

 まず、刑事責任についていえば、子供は、14歳以上であれば、刑事責任能力がある(刑法41条)。よって、未成年であっても捜査機関によって逮捕や勾留されることがある。「未成年であれば逮捕されない」と考えている人は多いが、それは誤解だ。

 そして、その後は、少年事件として家庭裁判所で審判を受け、保護観察処分を受けたり、児童自立支援施設や少年院などに送致されたりする。未成年の場合には、少年法が適用されるため、刑罰ではなく、あくまで、性格の矯正や環境の調整を行うことに主眼がある。このように、未成年の場合は、少年法が適用されるため、大人とは扱いが異なる。

 大津いじめ事件では、滋賀県警は元同級生3名を暴行容疑で書類送検するなどし、大津家庭裁判所は、2014年に、2名を保護観察処分としている。

加害生徒の民事責任

 では、民事責任についてはどうだろうか。「未成年であれば賠償責任を負わない」と考えている人は案外多い。しかし、そのようなことは決してない。

 実は、民事責任に関しては、未成年といえども、基本的には大人と同じ責任を

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