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深刻な薬物汚染をラグビー界はどう払しょくするのか

ウイルス感染拡大のなか、別の非常事態に直面

増島みどり スポーツライター

トップリーグの中止を発表する太田治チェアマン

各競技で相次ぐ延期・中止の発表、ラグビー中止の本当の理由は

 新型コロナウイルスの感染拡大を食い止めようと、各競技のリーグが次々に試合の延期や中止、無観客での実施を発表していた3月上旬、ラグビーのトップリーグ(TL)は「別の理由で」リーグ戦中止を発表した。

 4日、TLに参加する日野のロック、ジョエル・エバーソン(29=ニュージーランド出身)が、コカイン所持、使用で麻布署に違法薬物使用の容疑で逮捕された。日野は5日、「重大な法令違反により逮捕されたことに対し、深くおわび申し上げます。部員の服務規律の順守、コンプライアンスに関する意識を徹底してまいります」とのコメントを発表し、チームは無期限の活動自粛に入るとした。

 これを受けてTLは9日、太田治チェアマンが会見を行い、3月に予定していた3節分、合計24試合全ての中止を決定した。同チェアマンは会見で、試合の延期ではなく、中止とした理由を「選手へのコンプライアンス教育を徹底するための措置」と説明。TLとしての、いわば連帯責任を取る形を選んだと明かした。

 政府の「新型コロナウイルス感染症対策専門家会議」が「ここから1、2週間の動向が感染を拡大させないための瀬戸際」と見解を示した2月下旬から、Jリーグがいち早く延期を決定したのを筆頭に、各リーグとも延期や中止の方向に一気に舵を切った。

 TLも2月26日の時点で、3月8日までに含まれる7節と8節、合計16試合の延期と、この代替試合を3月21日、22日、8節分は5月2日、3日に移行する日程までファンに開示していた。

 8日以降の日程を再度検討しようかというタイミングだった4日、TL所属の選手としてわずか9カ月の間に3人目となるコカインによる逮捕者を出す、異常ともいえる事態が起きた。チェアマンは「ラグビー選手イコール薬物、のようなイメージを早く払しょくしたい。日本ラグビーの存在を揺るがす大きな問題、非常事態」と、危機感を露わにした。

 中止期間でのコンプライアンス教育徹底を強調したものの、ラグビー界は危機感あふれるコメントをわずか9カ月前に発表したばかりだ。

「ワンチーム」が流行語大賞の一方で、フェアプレー精神は深刻な危機に直面

 W杯日本大会を控えていた昨年6月、TLの名門、トヨタ自動車の2選手、樺島亮太とイエーツ・スティーブン(ニュージーランド出身)がわずか1週の間に逮捕され、ラグビー界には衝撃が走った。この時、日本ラグビー協会の岡村正会長(当時)が発表したコメントは「同じチームから2人目の逮捕者が出たことは、日本ラグビーの根幹を揺るがす大変な事態」というもので、太田チェアマンが発表したのも全く同じ内容だった。

 様々な対策が実施されたうえで今年1月12日のTL開幕を迎えたはずだったが、舌の根も乾かぬうちに、同じく薬物の違法行為で逮捕者が出るとは恥ずべき事態だ。他競技で、もしこんな事件が続けば、「ラグビーの根幹を揺るがす」どころか、競技の存続にさえ関わるだろう。

 日本で初めて行われたラグビーW杯では「ワンチーム」と、海外出身選手も日本代表として団結するダイバーシティーの好例として注目が集まった。熱狂の陰で、コカイン問題はかき消されてしまったのだろうか。太田チェアマン、関係者は「対策はしっかり取った」という。

 TL、日本ラグビー協会は熱狂のW杯を終えた昨年11月には

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