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【33】感染症と災害との類似性と同時発生への備え

福和伸夫 名古屋大学減災連携研究センター教授

 先が見えぬ新型コロナウイルスの感染拡大で、社会の不安が増している。昨年末に中国が武漢での原因不明の肺炎の発生を認め、その後わずか3カ月で全世界に感染が拡大した。

3カ月で急拡大した新型コロナウイルス

 日本でこの問題がクローズアップされたのは1月末である。武漢在住の日本人がチャーター便で帰国し、同時に、武漢の観光客を乗せたバスや屋形船からの国内感染が報道された。2月には感染者を乗せたクルーズ船が横浜港に入港した。この時期までは、水際対策に力点が置かれていたが、2月半ばには、病院やスポーツジムなどから集団感染が始まり、検査・治療に重点が移った。

封鎖されて間もないころの武漢市中心部=2020年1月下旬

 2月下旬には、イベントの自粛や小中高校の休校の要請が行われ、3月から全校休校になった。3月中旬になってWHOがパンデミックであることを認め、株価の乱高下が始まった。センバツも中止になり、新型コロナの特措法が成立した。欧米で感染が急拡大する中、3月下旬に、東京五輪の延期が決定し、首都圏では外出の自粛要請が行われた。

正しく恐れ備えることの難しさ

 私自身、当初は遠く離れた場所の問題と考えていた。今考えると、1月下旬に、事態の深刻さに気付いているべきだったと反省する。新型コロナを自分の問題と考えるようになったのは、2月中旬である。

 会議や講演会の中止・延期の連絡が入り始めた。新幹線に乗車するときにマスクを着けるようになったのもこの時期である。2月末の安倍総理の緊急記者会見で様相が一変した。3月に予定していた講演会はすべてキャンセルになり、年度末の公的機関の会議もほとんどがメール審議かウェブ会議になった。

 3月に入って、昨年末以降からの事態の推移が、南海トラフ地震臨時情報発表前後の様子に似ていることに気づき、日々の状況の変化を記録することにした。合わせて、自身の想像力を育むため、カミュの「ペスト」を購読し、スティーブン・ソダーバーグが監督した映画「コンテイジョン」を視聴した。「ペスト」、「コンテイジョン」共に、極めて参考になる。

「ペスト」と「コンテイジョン」で当事者意識を育む

 1947年に刊行された「ペスト」は14世紀にヨーロッパで大流行したペストに着想を得た小説であり、フランス植民地のアルジェリア・オラン市でのペスト集団感染下における人間模様を描いている。隔離政策が行われる中、ペストは終息していく。まさに、武漢封鎖を彷彿とさせる内容である。14世紀のペストのパンデミックでは、ヨーロッパで人口の1/3以上が命を落とし、全世界で1億人が死亡したと言われる。これは当時の人口の20%強に当たる。

 「コンテイジョン」とは接触伝染病を意味する。2011年に封切られたこの映画では、香港で感染が始まったウイルスが全世界で蔓延し、アメリカで250万人、世界で2500万人が死亡する。WHO(世界保健機関)とCDC(米国疾病予防管理センター)が中心になって感染ルートを調べ、新たなワクチンを開発し、終息に導く。よく耳にするR0(基本再生産数、アールノート)も登場する。SNSでデマが拡散する様子は今の状況に似ている。武漢やイタリアの様子を彷彿とさせる映像が印象的である。

南海トラフ地震臨時情報を想起させる事態の推移

 新型コロナと南海トラフ地震とに類似性を感じる。1月後半の様子は、南海トラフ沿いの震源域で普段と異なる観測情報が得られ始めるときによく似ているだろう。観測情報の異常を早期に検知し、状況の推移を監視しつつ、種々の戦略を練り準備を始める

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