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緊急事態宣言発令でJリーグのクラブは長期休止とどう戦うか

増島みどり スポーツライター

日本野球機構とJリーグが設置した「新型コロナウイルス対策連絡会議」の第4回会議=2020年3月23日、東京都港区、代表撮影

7都府県に18クラブ、各クラブも活動の大幅見直しに対応

 5月6日まで1カ月の緊急事態宣言の発令によって、7都府県の自治体をホームタウンとするJクラブにも、新型コロナウイルス感染拡大防止に新しい対応が求められる。各都府県知事は、生活の維持に必要な場合を除く外出の禁止、多数が集まる施設の使用制限、停止をも要請できるため、サッカーなどスポーツ実施へのハードルがより上がるためだ。

 夕刻の緊急事態宣言発令を前に、4月7日昼、7都府県のひとつ、神奈川県横浜市をホームタウンとする「横浜F・マリノス」は、こうした情勢に即座に対応し「当面の間活動を休止する」とのリリースを発信した。

 クラブ事務所は、すでに3月1日と早い段階から在宅勤務に切り替えており、子どもたちを指導するアカデミー・スクール活動は、学校の休校に協調し活動を休止。トップチームは、当初8日までの活動休止をする予定だったが、Jリーグが目標とした3回目の再開日5月9日も4月3日に白紙となり、新しいスケジュールを組んだ。

 「活動再開時期については、今後の政府・自治体の要請内容などを考慮して判断していきます」とリリースに加えられた一文に、従来とはまた異なる緊張感が表れていたように受け取れる。

 対象となる7都府県には、Jリーグ56クラブのうち18ものクラブが拠点を置く。緊急事態宣言発令前には、東京都のFC東京(期間未定で活動休止)、東京V(19日まで)、町田(未定)、埼玉県の浦和(18日まで)、大宮(20日まで)、千葉県の柏(30日まで)、千葉(未定)、神奈川県の横浜Fマリノス(未定)、横浜FC(未定)、川崎F(19日まで)、湘南(19日まで)、YSCC横浜(19日まで)、SC相模原(未定)、大阪府のG大阪(13日まで)、C大阪(1日に選手の感染判明以降休止)、兵庫県の神戸(3月30日酒井選手の感染判明以降休止)、福岡県の福岡(19日まで)、北九州(19日まで)と、それぞれ自主的な判断で活動を休止していた。

 しかし7日の緊急事態宣言後、東京Vは永井秀樹監督のコメント発表と同時に当面の活動休止を改めて発表し、川崎も休止期間を未定とする。また湘南も当初の19日までの予定を再度変更する方針だ。浦和も18日までとした休止を延長すると発表した。緊急事態宣言はこのように、自治体と活動を共にするJリーグ各クラブに今後、これまでとは違う判断基準が加わるという点で大きな影響をもたらす。

札幌28選手が6カ月分の報酬返上を申し出た本当の理由

 全国でもいち早く感染防止の成果をあげたといわれる北海道・コンサドーレ札幌では、練習は2勤1休のペースで行うまでになり、独自の動きに大きな注目が集まっている。再開の日程さえ見えない事態だが、28選手たちが経営の損失を憂慮し自発的に給与の減額を野々村芳和社長に直訴した。6日には野々村社長が「確かに選手側から申し出をもらいました。クラブ、地域の皆さんと共にこの困難を乗り越えようとする選手の気持ちは有難く、勇気付けられた」と、実際に報酬カットを行うかは未定として取材に答えた。

 広報によると、実際に選手側から申し出があった内容は、試合が行われていない4月から9月まで6カ月分の年俸、合わせて試合の勝利給などインセンティブの部分で、総額1億円弱の人件費に当たるという。Jリーグが開示するクラブ経営情報(18年度)によれば、チーム人件費はどのクラブでももっとも大きなウエイトを占める。

 札幌の人件費はJ1・18クラブ中15番目の15億200万円(人件費のトップは神戸の44億7700万円)。28選手の申し出は札幌にとって大きな金額で、地域密着を掲げるJリーグの理念にも沿うものだ。

 一方で、札幌を含め5クラブが純利益は赤字で、3期連続になればクラブライセンスははく奪される。Jリーグは新型コロナウイルス対策により、今季は特例措置で対応する方針を固めてはいるが、選手にとって報酬返上は美談ではない。むしろ、先行きの見えないリーグ再開、経営状態に対して冷静に、シビアな判断で算出した現実的数字だといえる。

 村井満チェアマンは、「Jリーグ全クラブとも緊張感と、地域への高い貢献意識を持って困難と戦ってくれている」と、感染防止対策と並行して模索してきたリーグ再開について、各クラブの努力への敬意を示してきたが、再開の白紙撤回によって経営問題も深刻化している。

437試合の再編タイムリミット、約20億円の減益への対応切迫

 Jリーグではここまで、①試合の日程②競技の公平性の確保③観戦環境でのウイルス対策④クラブの財務対応の4つのプロジェクトを立ち上げて問題点を検討しながら再開を模索して来た。①の日程については、7日の政府の緊急事態宣言で少なくとも5月6日まで、再開に向けた具体策は取れない。感染を抑え込み緊急事態が解除されたとしても、カップ戦を含め延期されている合計437試合もの再編を現実的に組めるのは6月後半、再開は最短でも7月になるだろう。

 緊急事態宣言とその後の自治体でそれぞれ出される自粛要請の内容によって、Jリーグが特例としたリーグ戦成立のための「タイムリミット」も迫ってくる。

 クラブの試合数50%消化と、リーグ戦全体の消化率75%の壁である。自治体が施設、開催日のスタジアムバス運行など特定の交通機関への規制を行う場合、新たな日程を組むのは今以上に困難になる。試合が消化されなかった場合、順位決定はなく、タイトル表彰やそれに伴う賞金の授与もなくなる。

 経営難も深刻化する。

 ④の財務対応にあたる、Jリーグのクラブ経営本部・鈴木徳昭リーダーは3月25日に行われたテレビ会見の席で、試算を明かした。鈴木氏は「J1、J2、J3で10億から15億円の(減益の)可能性があり、Jリーグとしても4億円から5億円が出るかもしれない」と、合計での最大20億円にものぼる減益への危機感を示した。

 対応には、本来はクラブが経営困難でリーグ戦の実施ができない場合に、ペナルティーと引き換えに貸し出す「公式試合安定開催資金」10億円を充てる案を検討中だ。

 J1は3.5億円、J2は1.5億円、J3は3千万円を上限に、クラブに融資するシステムで、ペナルティーなどはもちろん設けず、返済期限は原則1年のところ今回は特例として猶予3年を取る。鈴木氏は「10億円と、理念強化分配金(J1を対象に上位4クラブに還元される)100億円も活用できればと検討している」と、救済案を提示している。

 村井チェアマンは7日、緊急事態宣言の発令直後「今後、各知事による具体的な措置の決定があると思います」と、従来の判断基準にさらに新たな自治体判断が加わる可能性についてコメントした。

 「(コメント中略)もどかしい日々が続いてしまうことを誠に申し訳なく思っておりますが、まずはご自身と周囲の方の健康維持を大事にしていただき、明るい再開に向けて引き続きのお力添えをよろしくお願いいたします」

 明るい再開がかなう日がいつなのかはまったく分からないが、それでも諦めるには早過ぎる。