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コロナと徴兵制

韓国や台湾の封じ込めから日本は何を学べるか

清義明 ルポライター

 韓国の新型コロナウイルスの封じ込め対策が世界から賞賛を浴びている。

 当初は韓国第三の都市である大邱でのアウトブレイクが深刻な状態になっていたが、そこからいち早くPCR検査を広く実施するなどの対応を行った。また罹患者の個人情報と行動履歴などを公開し、その接触者に対して検査を徹底的に行うなどの対策が成功したようだ。現在では、国民の行動制限なども緩和することが可能になっている。今後、世界で新型コロナウイルス対策のモデルケースのひとつとなるだろう。

新型コロナ対応に成功した国の共通点

南北軍事境界線近くで監視にあたる韓国軍兵士=2015年12月、東亜日報提供

 韓国の防疫対策といえば思い出すことがある。昨年、韓国に行った時に、これまで行ったことがなかった北朝鮮との軍事境界線に行ってみようと思い立った。この軍事境界線へ行くのはツアーでないと行けないことになっているため、韓国政府公認の旅行社に連絡すると、ツアーはしばらく中止されているという。豚インフルエンザの流行が確認されているため、その地域はすべて韓国軍によって封鎖されているというのだ。

 軍事境界線であるからには軍隊が伝染病対策のための「ロックダウン」をするのは当たり前なのだろうと、この時はさして違和感はもたなかった。しかし、この意味は今になってわかった。

 新型コロナウイルスへの対応が成功しているといわれている国には共通点がある。

 世評で言われているところでは、韓国・台湾・ベトナム・ノルウェー・イスラエル・フィンランド・デンマーク。

 シンガポールもここに加えていいかもしれないが、現在はシンガポールが対策を積極的にこうじなかった外国人労働者の感染クラスターが増えてきているとのこと。ひとまずシンガポールは置いておく。

 これらの国の共通点は何かといえば、すべて徴兵制の国だ(台湾は2018年に徴兵を取りやめたが、現在でもその代わりに4カ月の訓練期間を男子に課している)。

 もうひとつ、国境を接した他国に比較して封じ込めに成功していると言われている国にはドイツがある。ドイツは現在は徴兵制は施行されていないが、最近の2014年までは兵役は義務化されていた。

 今度は、現在なすすべもなく新型コロナウイルスの猛威が吹き荒れている国々を見てみよう。死者数が1万人を超えているのは、アメリカ・イタリア・スペイン・フランス・イギリス。

 この国々に共通なのは、すでに長いこと徴兵制をやめている国か、少なくとも21世紀の初頭に徴兵制を廃止し20年近くが経過した国々である。

 徴兵制というのは、国民皆兵のコンセプトでの戦時動員体制の基本である。常備軍として現役兵と、軍事訓練を受けた男性の全国民が有事に動員できる予備役となる。それは国家の存亡をかけた総力戦を可能とする。何時いかなる時でも、国民はすべて戦時体制に移行できるということだ。

軍隊と疫病対策

 21世紀になってから軍事分野で特に注目されてきたのはバイオテロである。伝染病などをつかったテロは、被害は小規模にとどまるとはいえ、世界で頻発してきていたからだ。その先駆けとなったのは日本のオウム真理教事件であるが、古代ギリシアの昔から、細菌兵器(生物兵器)といわれるものは使われてきた。旧日本軍の731部隊もこのひとつである。

 伝染病対策という観点からいえば、

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