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人と動物の関係にもコロナウイルスの影響が

これを機に考え直したい、グローバル経済に組み込まれた現状

梶原葉月 Pet Lovers Meeting代表、立教大学社会福祉研究所研究員

新入り猫を連れ「ニューノーマル」の動物病院へ

 もう、遠い昔のような気がするくらいだけれど、このコロナウイルス感染症で緊急事態宣言が発令される少し前のこと、3月も終わりだというのに、関東南部でも驚くほど雪が降った日があった。

 その1匹の猫が、神妙な顔でうちの玄関にいたのは雪の降る前日のことだ。

 やたらと人に擦り寄る若い野良猫で、数ヶ月前から見かけるようになった。餌をやったり撫(な)でたりはできたが、自分から家に入りたいなどというそぶりは見せたことがなかった。うちにはすでに神経質な先住猫が2匹いるし、この子を強引に捕まえるのは「無理だからなあ」と思っていた矢先のことだ。

 その日はうちのまわりから離れず、今度は窓の側から覗いて、寒さで鼻を赤くしながら何かを叫んでいる。玄関の戸を開けると自分で中に入ってきた。「ああ、よかったあ……」というように、その子は一声鳴いた。

 しかし、まずは動物病院で病気などの検査をしなければ先住猫と一緒にはできない。私の仕事部屋に隔離すると、すぐにも毛づくろいを始め、くつろいだ様子だ。ちゃっかりしている。

 4月の動物病院は、例年なら予防注射などで混んでいるはずだが、さすがに緊急事態宣言中のその病院には、私以外誰もいなかった。

 受付はビニールで仕切られ、感染防止策もとられている。

 以前横一列に並んでいた待合室の椅子は、2メートル以上離され、それぞれの間にはパーティションが設置されている。

Andrii Medvednikov/shutterstock.com
 もちろん、私を含め動物看護師、獣医師も全員マスクを着用。消毒液も常備されている。なるほど、これが「ニューノーマル」の動物病院か、と感心したが、結局狭い診察室でみんなで猫を押さえると、三密など気にしてはいられないので、少し可笑しかった。

 幸いこの新入り猫は、感染症の問題もなく健康だった。

 ただ、すでにいる2匹の猫社会に仲間入りするのは大変なことだ。先住猫と、新入り、両方にストレスがかからないように、少しずつ顔合わせしていくには時間が必要で、なかなか手間がかかる。その意味では、新型コロナウイルス感染拡大防止のためのステイホーム週間で、かえってよかった。

コロナに翻弄される動物と保護団体

 普段は家にいない人々が新型コロナのために家に縛り付けられる事態が発生する中で、アメリカでは一時、自己隔離する人たちがペットを動物シェルターからもらうケースが倍増し、4月中旬にはシェルターが空になるところもでてきたという。これはめったにないことだ(「里子のペットたちは隔離中のアメリカ人付きの家を見つけている Foster Pets Are Finding Homes With Quarantined Americans」Sandra E. Garcia The New York Times 2020年3月19日、4月8日更新)。

 しかし、一旦空になった動物シェルターに、今は新型コロナウイルス感染症で飼い主が死亡したあとに残されたペットたちが、どんどん入ってきているらしい(「ペットの飼い主がコロナウイルスで死亡したとき残されたペットに起こること This is what happens to the pets left behind when their owners die from coronavirus」Kara Scannell CNN 2020年5月12日)。ペットたちにとっては一難去ってまた一難だろう。

東京の保護団体でミルクを飲ませてもらう子猫。埼玉県内で段ボール箱に入れて置き去りにされていたという=2020年4月

 日本では逆に、動物の里親探しのための譲渡会が開けないので、保護した動物たちの行き場がなく、保護活動をしている団体は、苦境に立たされているという(「保護犬、猫も『死活問題』 バーチャル譲渡会で感染防止」太田匡彦 朝日新聞DEGITAL 2020年4月17日)。

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