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ススキノは「悪の根源」なのか~北海道Go To停止の影響は甚大だ

Go To停止が札幌市や北海道の各種産業に与えている影響と課題について

古本尚樹 防災・危機管理アドバイザー

 新型コロナウイルスの感染拡大が顕著な地域の一つ、札幌市、また北海道での企業等における影響について論じたい。元来、私は被災者の健康格差、また企業等におけるBCP(業務継続計画Business Continuity Plan)を専門とする研究者なので、この観点も踏まえて地元での影響を考察する。

コロナ禍のキーワードは「高齢化」

 クリスマス・イブの札幌は例年、飲食店、特にススキノなど歓楽街はにぎわうし、かきいれ時だが、Go To 停止や飲食店への営業自粛等により、札幌市中心部やススキノでの客の入りは半減から更に少ないと思われ、極論すれば閑散に近い状態だ。これでは、飲食店や観光客をメインにする接客業、ホテルなどの旅行関連業種の大部分は、かなりの「体力」がなければ事業継続が不可能だろう。

深夜から未明にかけて営業自粛を要請された札幌のススキノ地区=2020年11月7日、札幌市中央区

 普段、若手経営者の集合体である全国の青年会議所からの依頼で、講演や研修を担当している。こうした若手には、仮に新型コロナで店や事業を閉じることがあっても、再起の可能性はある。

 この新型コロナによる企業の経営へ影響を論じる時に、重要なキーワードが常に欠落していると思う。それは「高齢化」だ。

 個人経営者が高齢化しているケースは少なくない。札幌、そして北海道も例外ではない。そのため、新型コロナでやむを得ず店じまい、閉店する時に再起はない、これで商売そのものを止める高齢の経営者が多いのである。

 かれらにとっては生活の糧であったり、馴染み客の憩いの場になっていたり、そして彼ら店主の生きがいそのものであったはずだが、高齢での店じまいは、その人の商売人生そのものを終わらせることにつながっている。

 そういう傾向が札幌や地方では存在するのに、いわゆるコロナ分科会や政府から「高齢化」に関する企業従事者、経営者の課題を挙げることを聞いたことがない。

 健康でいることの重要性はわかる。その一方で、商売をやめる経営者らの商売人生そのものを、終わらせることは理解されているのだろうか。災害ならば復旧や復興の名の下に様々な対策が続いていくが、新型コロナでは高齢の経営者や従業員の対策は置き去りに近い。

「破産」のニュースに慣れる恐れ

 新型コロナ関連の企業倒産や解雇者は日々増加し、最新の情報では8万人に迫っている。実感としても札幌中心部での閉店はとても目立つ。

 とりわけコンビニエンスストアの閉店が目立つ。このコンビニは基本的にフランチャイズになっているので、各個人事業主が経営として成り立たなくなってきているのだろう。ファストフード店、海外からのインバウンドに傾倒したドラッグストアの閉店も多い。

 そしてその観光自粛による影響で、宿泊施設の休業も目立っている。大手ホテルチェーンやリゾートホテルとともに、札幌の奥座敷、定山渓温泉の大型ホテルも次々休業している。

 この相次ぐ休業は雇用の場が無くなることを意味している。支援給付がある場合でも、多くは非正規職員である。そうした雇用を失った人たちがハローワークへ、という流れになっている。

 12月25日には、いわば「自治体の財政破綻」をして財政再生団体となった夕張市で、スキー場やホテルなどを運営するリゾート会社が破産するニュースも入ってきた。コロナ禍でスキー場などが休業というニュースが出たばかりだったが、結局破産になるらしい。この破産申請が行われれば、北海道内での新型コロナ関連の倒産は37社目になるという。

 観光やリゾートに関する業態は一層深刻になるだろう。そのうち、「破産」のニュースに慣れてしまうのではないかと危惧している。

 企業が消え、雇用を喪失し、無職層・貧困層が増大する。この繰り返しの中に日本はある。関連して、こうした環境下で犯罪や自殺者が増加することは、いわゆる「貧困研究」では定番の部分になるが、北海道関連のニュースを見ていると、うなずける部分が多い。

ススキノは悪の根源なのか

 ハローワークでは、失業給付金の日数の増加(延長)を基本的には行うことになっている(国会で成立。給付延長は基本60日)。だから失業中で給付を受けている者にとってはありがたいことだが、いかんせんこの経済不況の状態では、就職活動期間も伸びるし、仮に伸びて就職が決まればよいが、なかなか決まらない。

 特に中高年にとっては過酷である。特に感染拡大している地域、私が住んでいる札幌のハローワークは対応に追われているようだ。

 新型コロナ禍では、感染防止と経済活動との「天秤」をどうあやつるのかが大きな課題になっている。いわゆるGo To を実施したら感染が拡大してGo To を停止する、その結果として企業倒産や雇用喪失が増大する、そうしたことの繰り返しなのだろう。

 各種協力金等を飲食店等に出しても、さすがにこれでは持ちこたえられないと感じている事業者は多いはずだ。そうなると協力金をもらうより、また仮に罰則が付託されたとしても、「生き残るため」にはペナルティが課されても営業せざるを得ない場合が多くなるだろう。

 そうなれば結果としてまた感染拡大を招くことになりかねない。つまり、現状の繰り返しではもはや我慢の限界だし、多くの事業者が耐えきれないのである。

札幌・ススキノ地区に近い狸小路商店街。夕方も閑散としていた。コロナ禍以前はインバウンドなどでにぎわっていた=2020年11月26日、札幌市中央区

 一連の報道で、札幌では歓楽街のススキノが注目されている。コロナ分科会の発表でも、大阪等の歓楽街で人出が減少したことにあわせて感染者数も減少したという対比が示されている。人の流れを止めることで感染を抑止できることを示唆している。

 実際に普段、ススキノは人が多く、感染拡大の原因として確かに思い当たる部分はあるが、ススキノ以外にもそれぞれの地域に根付いた歓楽街は多数ある。他の都市部でも同様だ。「悪」の根源が全てススキノに集約されているかのような指摘には疑問がある。

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